オーツ麦β-グルカンの分子量は血糖上昇曲線下面積に影響を与えない

【背景】
オーツ麦β-グルカンを摂取すると、消化管の内容物の粘度が上がり消化吸収が遅くなることで食後の血糖応答を抑えるが、食品へのオーツ麦β-グルカンの添加により食品の味や質感が変化し、嗜好性が低下する可能性がある。

著者らは先行研究において、白パンを食べる数分前に0.9g、2.3g、5.3gのオーツ麦β-グルカンを含むオートミールをとると、オーツ麦β-グルカンの用量依存的に食後の血糖応答が抑えられることを確認している。※1しかし、この作用はオーツ麦β-グルカンの量と粘度のどちらの影響によるものかについては明らかではない。

著者らはオーツ麦β-グルカンの粘度が血糖応答に影響するとの仮説を立てた。一定量のオーツ麦β-グルカンを含む溶液の粘度はオーツ麦β-グルカンの分子量を変えることで調整できる。本研究では4gのオーツ麦β-グルカンの分子量の違い、つまり粘度の違いが食後の血糖応答に与える影響について検討した。

【方法】
対象は16人の健康な男女(41±11歳、BMI 25.6±2.7)。一晩絶食後オーツ麦β-グルカンを4g含む6つのサンプル(表)を200mlの水とともに摂取し(プリロード)、51.5gの利用可能な糖質を含む白パンを飲み物(1杯のコーヒー、紅茶、水、いずれにも30mlの牛乳や人工甘味料の添加は可、ただし毎回同じ飲み物)とともに12分以内に摂取。対照として水200mlのみをプリロードとする試験も2回、計8回の試験をランダムな順番で行った。試験は少なくとも1日間隔で週に最大3回までとした。

試験食の栄養成分と全粒穀物の粒子サイズ

試験食摂取後、左端が「非常に口当たりが悪い」、右端が「非常に口当たりが良い」とする100㎜の線からなるビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて嗜好性の評価を行った。

プリロード前と食事開始前、食事から15分、30分、45分、60分、90分、120分後の血糖値を測定した。

【結果】
6つのサンプルとも、対照に比し口当たりが著しく劣ると評価された。嗜好性はサンプルの分子量や粘度とは関連しなかった。

血糖値のピーク値と、0分~120分の血糖上昇曲線下面積(iAUC)は各試験間で有意差がなかった。MW3、MW4、OP1、OP2の血糖値の増え幅は対照に比し食後15分、30分で小さく、MW2は食後90分で小さかった。MW3、MW4、OP1、OP2の0分~45分のiAUCは対照に比し低値で、MW4とOP1は血糖値がピークに達するまでの時間が長かった。

解析の結果、0分~45分のiAUCは分子量、初期粘度、消化後粘度がそれぞれ10倍(1log単位)増えると~17%、~16%、~20%低値となった。血糖値がピークに達するまでの時間は、分子量、初期粘度、消化後粘度がそれぞれ10倍増えると、~12分、~14分、~15分遅くなった。

【考察と結論】
本研究において血糖値のピーク値と、0分~120分のiAUCは各試験で有意差がなく、プリロードに用いるオーツ麦β-グルカンは粘度が高いほど食後の血糖上昇を抑えるという仮説は支持されなかったが、0分~45分のiAUCと血糖値がピークに達するまでの時間の長さは粘度に関連した。

著者らがプリロードとして0.9g、2.3g、5.3gのオーツ麦β-グルカンを加えたオートミールを用いた先行研究では、5.3gのサンプルを用いた場合のみ0分~120分のiAUCが対照に比し低値となり、血糖値がピークに達するまでの時間が長くなった。※1本研究で用いた4.0gのオーツ麦β-グルカンでは用量が十分ではなかったのかもしれない。

なおOP1は先行研究と同じオートミールを用いているので、先行研究における0分~45分のiAUC 、0分~120分のiAUC 、血糖値のピーク値、血糖値がピークに達するまでの時間のプロットにOP1の結果を重ねてみたところ、用量依存的に食後の血糖応答が抑えられるという結果に一致した。高分子のオーツ麦β-グルカンでは、血糖応答は用量に依存することが示唆された。

【研究機関】
INQUISクリニカル・リサーチ(カナダ)、VTTフィンランド技術研究センター(フィンランド)、オタワ大学(カナダ)、DSMニュートリショナル・プロダクツ(スイス)、チューリッヒ大学病院(スイス)

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

引用している既報※1では、オートミールを摂取した際の食後血糖上昇抑制作用が認められている。本論文の違いは、抽出されたオーツ麦β-グルカンを用いている点にある。β-グルカン抽出物は水に溶けにくく、通常はエタノールで膨潤させたあと、熱水でないと溶解しない。本試験は、水に塊にならない程度に懸濁させて飲用しているため、胃の中で粘性のある水溶液なったのか疑問が残る。一方で、粘度は溶解してからでないと測定できないため水溶液の状態である。したがって、β-グルカンと炭水化物が一体となったオートミールを摂取する実験と、懸濁した抽出β-グルカンと白パンを摂取した場合の相互作用は同じとはいえない。我々の実験でも、大麦β-グルカン抽出物の粉末を餌に添加した実験では糖代謝や脂質代謝に影響が認められなかったので、同様の懸念がある。結果を注意して判断すべきである。

※1 Nutrients 8, 9, 524, 2016

Effect of Varying Molecular Weight of Oat β-Glucan Taken just before Eating on Postprandial Glycemic Response in Healthy Humans
Nutrients 12, 8, E2275, 2020

2020年9月25日掲載