大麦β-グルカンでBifidobacteriumを含むActinobacteriaが増加
短鎖脂肪酸を増やし代謝改善

【背景】
大麦β-グルカン(以下BG)高含有の食事は、食後の血糖応答やインスリン応答を良好に保つことが先行研究で示されているが、その生理学的な役割について、詳細は不明である。本研究ではBG含有量の異なる大麦粉を配合した高脂肪食(HFD)でマウスを飼育し、代謝系に与える作用に差異が出るかどうかを調べた<試験1>。また無菌マウスを用いた評価系において、腸内細菌叢とその代謝物である短鎖脂肪酸(SCFA)の関与も調べた<試験2>。また、大麦粉でみられた作用がBGによるものであることを、セルロースを対照とする試験で確かめた<試験3>。

【方法と結果】
<試験1>
4週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)に、BG量の多い大麦粉あるいはBG量の少ない大麦粉を20%配合した高脂肪食(60%が脂質)を与えて12週間飼育した。BG量は前者が餌の2%(HBG群)、後者が餌の0.6%(LGB群)で、対照群(CO群)には大麦粉を含まない高脂肪食を与えた。試験の流れ、調べた項目とその結果は以下の通り。

試験1の流れ
①体重の推移:成長期の体重は、HBG群が他の2群に比べて少なかった(13週齢と15週齢でCO群に比しP<0.05)。
②摂餌量:CO群に比し、HBG群で有意に少なかった。
③糖負荷試験(腹腔内、経口):CO群に比しHBG群の血糖値は腹腔内負荷の15分、30分、60分、経口負荷の15分で有意に低値だった。
④白色脂肪細胞の脂肪量(WAT)、解剖時の血液検査:CO群に比し、HBG群はWATが少ない、インスリン値が低い、PYY値とGLP-1値が高いという有意差があった。血糖値、中性脂肪値、レプチン値は有意差がなかった。LBG群はいずれも有意差がなかった。
⑤糞便中のSFCA量、菌叢解析:酢酸とプロピオン酸はCO群に比しLBG群とHBG群で、酪酸はHBG群で有意に多かった。HBG群ではCO群やLBG群に比し、酢酸産生菌の多いBifidobacterium属を含むActinobacteria門の菌が有意に多かった。Bacteroidetes門とFirmicutes門の比は3群間で有意差はなかった。



<試験2>
BGの効果が腸内細菌を介するものかどうか確認するために、無菌マウスにCO群あるいはHBG群と同じ餌を与えて飼育し同様の試験を行ったが、体重、WAT、PYY値、GLP-1値、摂餌量、糞便中のSCFA量のいずれも両群で同等だった。

<試験3>
これらの効果が大麦粉に含まれるBGによるものかどうか確認するために、BG5%(HFB群)あるいはセルロース5%(HFC群)の高脂肪食で4週齢のオスのノーマルマウスを12週間飼育し同様の試験を行ったところ、HFC群に比しHFB群はPYY値、GLP-1値が高い、摂餌量が少ない、糞便中のSCFA量が多いという有意差がみられた。またActinobacteria門の菌が有意に多く、Bacteroidetes門とFirmicutes門の比に有意差はなかった。


【考察と結論】
BG高含有の大麦粉は食欲を抑制し、インスリン感受性を改善することによって体重や体脂肪量の増加を防ぐことがわかった。これらの作用には、腸内細菌が産生するSCFAによって誘導される消化管ホルモンが関与している。SCFAによる消化管ホルモンの誘導は短鎖脂肪酸受容体のGPR41とGPR43を介するものと考えられる。将来的には、これらのレセプターを欠損させたマウス試験によって消化管ホルモンのシグナル伝達や生理機能がより明らかになるであろう。SCFAによる消化管ホルモンの誘導はヒト試験でも確認されており、※1今回のマウス試験で得られた結果はヒトにも応用可能と考えられる。

20%の大麦粉と5%のBGを含む高脂肪食の両方でマウスの腸内細菌叢が変化し、特にActinobacteria門の菌が有意に増えた。Actinobacteria門の菌は難消化性の多糖類を発酵させることによりSCFAを産生するが※2、 BGの発酵によるSCFA産生において重要な役割を有する可能性がある。先行のヒト試験では、大麦パンの摂取による食後の血糖上昇抑制作用にPrevotella属の菌が関与すると報告されている。※3しかし(Prevotella属を含む)Bacteroidetes門とFirmicutes門の比に変化がなかった。今回のマウス試験ではBGの投与期間が長く、先行のヒト試験では投与期間が3日と短かったことが影響した可能性がある。

BGは腸内細菌叢の変化により産生するSCFAなどを介し、代謝系に有益な作用を及ぼす。これが大麦による代謝改善の中心的なメカニズムであると考えらえる。

※1 Gut 64(11), 1744-54, 2015
※2 World J Gastrointest Pathophysiol 6, 110–19, 2015
※3 Cell Metab 22, 971–82, 2015


【研究機関】
東京農工大学、日本医療研究開発機構、慶応大学

Barley β-glucan improves metabolic condition via short-chain fatty acids produced by gut microbial fermentation in high fat diet fed mice
PLoS One 13, e0196579, 2018