大麦TOPICS

大麦と納豆の高摂取で酪酸産生菌が増加 、抗肥満作用に寄与

【背景】
大麦のβ-グルカンをはじめとする発酵性の食物繊維は、腸内細菌によって代謝され短鎖脂肪酸が産生される。短鎖脂肪酸は糖代謝や脂質代謝の改善などに役立つと考えられるが、その作用は宿主の腸内細菌叢の違いにより変わる可能性がある。

本研究では、大麦の摂取が肥満に与える影響は個人の腸内細菌叢の違いに起因するという仮説のもと、大麦の摂取量が多い非肥満者を「レスポンダー」、大麦の摂取量が多い肥満者を「ノンレスポンダー」と定義した。両者間の腸内細菌叢の違いを検討し、レスポンダーに特徴的な菌種を特定することを目的とした。

また大麦と同様に日本の伝統食品である納豆に着目した。納豆菌のBacillus subtilisは胃酸や胆汁酸に耐性があるため大腸まで到達し、腸内細菌叢を調整して血中脂質レベルを下げるという報告がある。※1大麦と納豆の摂取と腸内細菌叢や肥満への影響も調べた。

【方法】
対象は大麦加工販売会社の社員256人。腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性のある抗生物質を服用している21人とBMIが正常範囲高値(23<BMI<25)の50人を除く185人(平均年齢39±12歳、男性134人)を解析対象とした。大麦の摂取量(g/日)は麦ごはんの摂取量、摂取頻度、大麦の配合比から算出した。食生活全般は簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)で調べ、単位エネルギーあたりの大麦の摂取量(g/1000kcal)を決定した。

大麦摂取量の中央値(3.494g/1000kcal)に基づき、大麦低摂取群(93人)と大麦高摂取群(92人)に分けた。大麦高摂取群はBMIが23未満のレスポンダー(61人)と同25超のノンレスポンダー(31人)に分けた。

対象者が自宅で採取した糞便サンプルの16S rRNA解析を行い、α多様性、主座標分析(PCoA)によるβ多様性の解析を行い腸内細菌の組成を検討した。交絡因子の影響を抑えるためのロジスティック回帰分析、レスポンダーに特有の腸内細菌に対する交絡因子の主効果測定のための多元配置分散分析も行った。

解析対象の185人を大麦と納豆の摂取量の中央値(大麦は上記、納豆は2.2g/1000kcal)に基づき4群に分け、4群内のレスポンダーに特徴的な腸内細菌をKruskal-Wallis検定で比較した。

【結果】
大麦の平均摂取量は5.1 ± 5.2 g/1000 kcal( 0~50.8 g/日)だった。レスポンダーはノンレスポンダーに比し有意に若く、女性が多く、BMIが低く、ウエスト周囲径が小さく、全般的に健康状態が良好だった。納豆の摂取量はレスポンダーがノンレスポンダーより有意に多かった(それぞれ7.6 ± 9.4 g/1000 kcal、3.9 ± 5.1 g/1000 kcal)。

PCoAによるβ多様性の分析では、PCo2でレスポンダーとノンレスポンダーの間で有意差があり、ノンレスポンダーと大麦低摂取群では有意差がなかった。α多様性に関しては、ノンレスポンダーに比しレスポンダーでShannon指数とSimpson指数が有意に高く、腸内細菌叢の多様性が示された。

腸内細菌の相対存在比が0.1%以上の64属を比較したところ9属の存在量がレスポンダーとノンレスポンダーの間で有意に異なり、1つを除くすべてがレスポンダーで豊富だった。9属についてロジスティック回帰分析で交絡因子を調整した結果、ButyricicoccusSubdoligranulumがレスポンダーで有意に豊富だった。

大麦β-グルカンを特異的に分解する酵素、リケナーゼを持つ細菌は主に土壌細菌で、Bacillus属が最も一般的であるが腸内ではあまり検出されない。Bacillusはレスポンダーの34%、ノンレスポンダーの19%で検出され、有意差はなかったが腸内のBacillusの存在量はレスポンダーで多かった(P=0.08)。

大麦と納豆の摂取量にはわずかな正の相関があった。Kruskal-Wallis検定から、ButyricicoccusSubdoligranulumが大麦と納豆の摂取量がどちらも多い群(高大麦高納豆群)で有意に多かった。ロジスティック回帰分析で交絡因子を調整すると、高大麦高納豆群ではSubdoligranulumが有意に豊富だった。

【考察と結論】
レスポンダーの腸内には酪酸産生菌のButyricicoccusSubdoligranulumが豊富に存在した。酪酸は脂肪酸受容体 (FFAR2) を介したシグナル伝達により結腸 L 細胞からの GLP-1 分泌を促し、インスリン抵抗性を緩和して抗肥満効果を発揮する。※2※3また肥満者の糞便サンプルでは酪酸レベルの低下がみられるという報告もある。※4本研究では短鎖脂肪酸の1つである酪酸の存在が大麦の摂取と肥満の関係に影響を与える可能性が示唆された。

ButyricicoccusSubdoligranulumはともに高大麦高納豆群で有意に多く、大麦と納豆の相互作用が示された。短鎖脂肪酸の産生には腸内細菌間の代謝リレーが必要と考えられる。レスポンダーのBacillus subtilisは消化管内で大麦β-グルカンを効率的に低分子化し、ほかの腸内細菌による代謝リレーを介し、短鎖脂肪酸の産生を促す可能性がある。その結果、宿主に有益な健康効果をもたらすと考えられる。

今後は、大麦と納豆の摂取タイミングが腸内細菌や肥満に与える影響を検討する必要がある。

【研究機関】
はくばく、医薬基盤・健康・栄養研究所、山梨大学

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

Bacillus subtilisと酪酸産生菌のクロスフィーディングを示唆する結果である。ButyricicoccusSubdoligranulumは、日本人のエンテロタイプを特徴づける菌属ではないため、肥満の表現型にどこまで影響するかについては、介入試験により実証する必要がある。

※1 J Anim Physiol Anim Nutr 96, 3, 506–512, 2012
※2 Diabete 61, 2, 364–371, 2012
※3 F Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 315, 1,G53–G65, 2018
※4 Nature 490, 7418, 55–60, 2012

High barley intake in non-obese individuals is associated with high natto consumption and abundance of butyrate-producing bacteria in the gut: a cross-sectional study
Front Nutr Published: 31 October 2024

2024年11月26日掲載