大麦TOPICS

大麦の継続摂取が上気道感染の予防や症状緩和に寄与、気分状態にも影響
ランダム化比較試験で確認

【背景】
大麦のβ-グルカンはグルコースがβ-1,4結合とβ-1,3結合でつながった直鎖構造の多糖類であり、β-1,3結合の主鎖にβ-1,6結合の側鎖がつながる真菌類(キノコ、カビ、酵母など)のβ-グルカンとは構造が異なる。酵母由来のβ-グルカンは、上気道感染の重症度の軽減や罹病期間の短縮に有益とするヒト介入研究の結果が複数報告されているが、大麦などの穀物由来のβ-グルカンの免疫調節効果は、動物試験での実証にとどまる。

本研究は穀物由来のβ-グルカンの免疫調節効果を評価するために、大麦の継続摂取が上気道感染の症状や主観的な心身状態の改善に与える影響について検討した。

【方法】
対象は主食として白米を1日1回以上摂取する健康な成人54人(男性35.2%、平均46歳、平均BMI 20.6)。対照群(27人)は白米ごはん100gを、大麦群(27人)は1.8gの大麦β-グルカンを含む大麦ごはんを1日1回、8週間摂取した。使用した大麦は高β-グルカン大麦の一品種「ダイシモチ」で黒紫色のアントシアニンを含む。そのため大麦ごはんは白米ごはんとは外観が異なり、二重盲検にはならなかった。

毎日の主観的な身体状況の評価にはウィスコンシン上気道症状調査票(WURSS-21)を用いた。上気道感染に関する10の症状それぞれの重症度(症状スコア)は0(症状なし)から7(重度)までで自己評価し、5以上を陽性とみなした。被験者は起床時の体温、試験食の摂取状況、服薬の有無、医療機関の受診の有無などをオンラインで毎日報告した。試験開始時と終了時に、過去7日間の気分の状態をPOMS2成人用短縮版を用いて0(まったくない)から4(非常に多くある)の5段階で評価した。

試験開始時と終了時、12時間以上の絶食後に採血し、NK細胞活性を測定した。

【結果】
対象者における各症状の累積有症率は0.1~2.1%とわずかであり、すべての症状は数日以内に消失した。大麦群は対照群に比し、くしゃみの累積日数が有意に少なく、疲労感が有意に低かった。大麦類の服薬累積日数は対照群に比し有意に少なかった。

1週目の症状スコアは2群間で有意差はなかったが、対照群は1週目に比し8週目に鼻詰まりとくしゃみの症状スコアが有意に高かった。一方大麦群では1週目と8週目で症状スコアに変化はみられず、8週目の鼻水、鼻詰まり、くしゃみの症状スコアが対照群に比し有意に低かった。

気分の状態は、試験開始時に比し終了時に対照群の緊張-不安(TA)が有意に高く、大麦群では疲労-無気力(FI)と友好(F)が低下傾向にあった。大麦群は対照群に比しTAの減少幅が有意に大きく、全体的な気分障害(TMD)の減少幅も大きい傾向にあった。

NK細胞活性は、試験開始時に比し終了時に対照群で有意に低下した。大麦の摂取がNK細胞活性に及ぼす影響は、試験開始時におけるNK細胞活性の中央値で2群に分けて検討した。活性が高いグループでは有意な変化がみられなかったが、活性が低いグループでは試験終了時にNK細胞活性が有意に上昇した。

【考察と結論】
本研究は、大麦の継続摂取が健康な成人の上気道感染症に予防的に働き、罹病期間を短縮することを示した初のランダム化並行群間比較試験である。一般的に、上気道感染に対する感受性はNK細胞活性の低下※1や炎症を誘発するサイトカインの上昇※2と相関する。大麦の摂取はベースラインにおけるNK細胞活性が低い集団のNK細胞活性の上昇に寄与すると考えられる。

試験食として用いたダイシモチに含まれるアントシアニンは免疫調節に働くことが知られるが※3※4、本試験におけるダイシモチのアントシアニン量は免疫賦活効果を発揮するには不十分であった。

大麦のβ-グルカンが上気道感染の予防あるいは症状を改善するメカニズムは不明だが、プレバイオティクス効果による間接的な影響である可能性も高い。

大麦の継続摂取は、感染症の予防や緩和、精神的ストレスの緩和により健康な成人の生活の質の向上に貢献する可能性がある。

【研究機関】
農業・食品産業技術総合研究機構

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

大麦の摂取による免疫賦活効果を検討した、日本人を対象としたパイロット試験である。各症状の累積有症率が非常に低いため、検出感度がやや低い。主要評価項目が、大麦の継続摂取が上気道感染の症状や主観的な心身状態の改善であるため、ある程度の成果は得られている。二重盲検化を工夫して、血液中の免疫指標の詳細を調べる追試験が望まれる。

※1 Med Sci Sports Exerc 26, 2, 140-146, 1994
※2 J. Appl. Physiol 91, 1, 109–114, 2001
※3 Adv. Nutr 7, 3, 488–497, 2016
※4 Nutrients 13, 4, 1132, 2021

Effects of Chronic Barley Consumption on Upper Respiratory Tract Symptoms in Japanese Healthy Adults: A Randomized, Parallel-Group, Controlled Trial
Nutrients 16, 14, 2298, 2024

2024年8月26日掲載