大麦TOPICS

大麦とオーツ麦は代謝リスク群の炎症を抑制
影響の個体差に腸内細菌叢が関与、システマティック・レビューから

【背景】
β-グルカンやフェノール化合物を豊富に含む大麦やオーツ麦の摂取が炎症や免疫関連疾患に与える影響を検討した研究は限られている。本研究は、大麦やオーツ麦、これらに含まれるβ-グルカンの摂取が免疫反応や炎症マーカー、腸内細菌叢に与える影響を評価したランダム化比較試験の結果を要約することを目的とした。

【方法】
オンラインデータベースのMedline、CENTRAL、CINAHLを2021年8月末まで検索、「大麦」、「オーツ麦」、「β-グルカン」、「腸内細菌叢」、「免疫」、「炎症」などの用語を用いて、大麦やオーツ麦、およびこれらから抽出したβ-グルカンが免疫系や炎症、腸内細菌叢に与える影響を検討した18歳以上を対象とするランダム化比較試験を抽出した。抽出した文献の系統的レビューはPRISMAガイドラインに従って実施した。

【結果】
抽出した3507件の報告から、研究デザインや試験食、試験対象などの基準に合致する16件のランダム化比較試験をレビューした。これらの研究には計1091人が参加しており、平均年齢は52.15歳(23~70歳)、平均追跡期間は4.83週間(1~12週間)だった。

■炎症マーカーの変化
健常者(20~50歳)を対象とする大麦の摂取の影響をみた3件の試験では、炎症マーカーに有意な変化はなかった。インフルエンザワクチン接種直後のオーツ麦β-グルカンの摂取は、抗ウイルス作用を有するIFN-γレベルを有意にあげることが健常者(50~79歳)を対象とする試験で示されたが、その他の炎症マーカーに有意差はなかった。

一方、肥満や高コレステロール血症などの代謝リスクを有する集団を対象とする試験では、オーツ麦フレークの摂取により血清中のhs-CRP、IL-6、IL-8、TNF-αなどの炎症マーカーが有意に減少した。同様に大麦フレークと玄米を組み合わせた介入で肥満者のIL-6を減少させるという報告もあった。

■腸内細菌叢の変化
大麦やオーツ麦の摂取と腸内細菌叢の変化に関する主な結果は以下の通り。
・高コレステロール血症患者が大麦の高分子量β-グルカンを1日3g、5週間摂取。Bacteroidetes門の菌が増加、Firmicutes門の菌が減少。
・メタボリックシンドローム患者が大麦β-グルカンを1日6g、4週間摂取。コレステロール値が低下した群は、介入前のBifidobacterium spp.Akkermansia muciniphilaが多かった。
・健常者が大麦フレークと玄米を単独あるいは組み合わせて1日計60g、4週間摂取。IL-6濃度が最も低下した群は、Dialisterが多くCoriobacteriaceae科の菌が少ない。
・健常者が115gの大麦パン(85%が大麦)を3日間摂取。耐糖能が改善した群はベースラインのPrevotellaが多い。
・健常者が大麦フレークを1日60 g、4週間摂取。腸内細菌の多様性、Firmicutes/Bacteroidetes比、Blautiaの存在量が増加。ただし被験者間で一貫性のない多様な変化がみられた。
・外皮と胚芽を除去した精白大麦を1日22g、4週間摂取。BlautiaAgathobacterFusicatenibacterなどLachnospiraceae科の細菌が増加。
・健常者が338gの大麦パン(85%が大麦)を3日間摂取。腸内発酵の指標となる呼気中の水素濃度が有意に増加。血清中の短鎖脂肪酸濃度も増加。
・軽度の高コレステロール血症患者が3gのβ-グルカンを含むオーツ麦80gを45 日間摂取。Akkermansia muciniphilaRoseburiaが大幅に増加。代謝性疾患に予防的に作用するDialisterButyrivibrioParaprevotellaも増加。Akkermansia muciniphilaRoseburiaBifidobacteriumFaecalibacterium prausnitziiの存在比と血清中の短鎖脂肪酸濃度は、オーツ麦摂取による血清脂質濃度の低下と相関。
・高齢者がオーツ麦β-グルカンを1日12g、サプリメントで6週間摂取。腸内細菌叢の構成に有意な変化なし。

【考察と結論】
大麦やオーツ麦の摂取によりIL-6、IL-8、IL-18、CRP、TNF-αなど特定の炎症マーカーがゆるやかに減少することが、16件中の5件の報告で有意差をもって示された。代謝リスクを有する集団は炎症マーカーのベースラインが高いため有意差が出た可能性が高い。ほとんどの研究で大麦やオーツ麦の摂取により腸内細菌叢に変化がみられたが、短鎖脂肪酸の産生や腸内細菌の多様性、代謝関連指標に関する結果はさまざまだった。代謝や免疫に与える影響は個々の腸内細菌叢に依存すると考えられる。

【研究機関】
リェイダ大学(スペイン)、リェイダ生物医学研究所(スペイン)

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

大麦やオーツ麦に含まれるβ-グルカンの摂取が腸内細菌叢を改善することは間違いないが、確定的なヒト介入試験の論文がないのも事実である。介入する食事の量がまちまちであること、プラセボ群がない前後比較の研究も多いこと、介入期間がさまざまであることなどが理由である。日本人を対象とした適確に設計されたランダム化比較試験の実施が望まれる。一方、炎症マーカーへの影響はエビデンスが乏しい。β-グルカンの腸内発酵による消化管の機能変化を介した効果と、大麦などに含まれるいわゆるフィトケミカルの効果が交絡している可能性がある。消化管免疫の誘導はある種の炎症マーカーの発現を亢進する一方で、代謝組織の慢性炎症は抑制するため、血清中の炎症マーカーでの解釈が難しいのが理由であろう。炎症マーカーへの影響は、さらなる研究が必要である。

Effect of Barley and Oat Consumption on Immune System, Inflammation and Gut Microbiota: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
Curr Nutr Rep Published: 24 May 2024

2024年6月20日掲載