大麦β-グルカンで耐糖能が改善
Bacteroidesの増加、代謝産物のコハク酸が関与の可能性

【背景】
大麦β-グルカン(以下、β-グルカン)が耐糖能を改善する機序として、β-グルカンの粘性による糖や脂質の吸収抑制という物理的な作用と、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸を介する作用が考えられる。我々の先行研究では、高脂肪食条件下(脂質エネルギー比50%)において、β-グルカン摂取によるマウスの耐糖能の改善作用や糞便中への脂質の排出促進が認められた。腸内代謝産物ではコハク酸が増加していたが、その他の有機酸や短鎖脂肪酸量には変化がなかった。一方、腸内細菌叢の多様性が減少していたことから、高脂肪食条件下でのβ-グルカン摂取は、β-グルカンの物理的な作用により大量の脂質が大腸へと運ばれることによる変化である可能性が示唆された。

そこで本試験では、通常食や中脂肪食の場合において、β-グルカンが耐糖能や腸内環境に与える影響について評価することを目的とした。

【方法】
8週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)を対照群(脂質エネルギー比7%の通常食、β-グルカンなし)、β-グルカン高含有の通常食、β-グルカンなしの中脂肪食(脂質エネルギー比25%)、β-グルカン高含有の中脂肪食の4群に分けて飼育。8週間後、経口糖負荷試験(OGTT)を行い、糞便中の脂質量、盲腸内容物中の有機酸量と短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢や腸内代謝産物の網羅的解析を行った。

【結果】
中脂肪食での解析、または通常食と中脂肪食を合わせた解析のいずれの試験でも、β-グルカン高含有の場合において、有意に血糖応答が改善した。マウスに与えた脂質量にかかわらず、β-グルカン高含有の大麦は食後血糖の上昇を抑える効果が認められた。

糞便中に排出された脂質量はβ-グルカン摂取の有無による違いは認められなかったことから、β-グルカン摂取による血糖応答の変化は、β-グルカンによる物理的な脂質の排出効果によるものではないことが明らかとなった。

腸内細菌叢の16Sメタゲノム解析から、β-グルカン摂取によって腸内細菌叢が変化したと考えられた。なかでもBacteroides属菌は、β-グルカン高含有摂取群において、中脂肪食では有意に増加し、通常食でも増加傾向であることが明らかとなった。

本試験では、先行研究で認められた腸内細菌叢の多様性の低下は認められなかったことから、高脂肪食負荷時に多様性の低下がみられた原因は、やはり高脂肪食そのものの影響のほか、β-グルカンが物理的に多量の脂質を大腸へと運んだためと考えられた。

腸内代謝物質のメタボローム解析結果から、通常食か中脂肪食かにかかわらず、β-グルカン摂取によって腸内代謝物質プロファイルの変化が認められた。特にβ-グルカンなし群に比べてβ-グルカン高含有群でコハク酸が有意に増加していた。GLP-1の分泌につながるGPR43のリガンドとなる短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)の量には有意差がなかった。コハク酸はBacteroides属菌の代謝産物として知られているが、β-グルカン摂取によるBacteroides属菌の増加とコハク酸量の増加には弱い正の相関が認められた。

【考察と結論】
2016年のCell Metabolismに掲載された先行研究※1では、高脂質・高スクロース食にフラクトオリゴ糖を混ぜた飼料を与えたマウスで、Bacteroides属菌の増加とコハク酸量の有意な増加、さらにはコハク酸の投与による血糖値改善と肥満抑制効果が報告されている。本試験におけるβ-グルカンによる耐糖能改善作用も、コハク酸の関与が考えられる。短鎖脂肪酸量には変化がなくコハク酸量が増えた理由や、それらと耐糖能との関連性について、その詳細は今後更に検討する予定である。

【研究機関】
はくばく、慶應義塾大学、大妻女子大学

※1 Cell Metab 24, 1, 151-7, 2016

大麦β-グルカン摂取による耐糖能改善効果と腸内環境への影響
2018年5月25日 第61回日本糖尿病学会年次学術集会, 口頭発表