大麦摂取が血圧抑制に与える影響は腸内細菌叢の違いにより異なる

【背景】
近年、複数の研究報告において腸内細菌叢が高血圧の発症や血圧コントロールに関与することが示唆されている。※1食後高血糖に対する大麦摂取の影響を調べた介入研究では、大麦の摂取後に血糖コントロールが改善した人はPrevotella/Bacteroides比が高いことが明らかになっている。※2また著者らは先行研究において、脂質異常を有しない大麦の摂取量が多い人の腸内にはFaecalibacteriumやLachnospiraなどの短鎖脂肪酸産生菌が豊富で、脂質代謝に対する大麦の効果の個体差が腸内細菌叢に起因する可能性を示した。※3高血糖、脂質異常と並ぶメタボリックシンドロームのリスク因子、高血圧に対する大麦摂取の影響の個体差にも腸内細菌叢が関与する可能性が考えられる。

本研究では、大麦の摂取に対する腸内細菌のレスポンスが血圧と相関を持つという仮説のもと、大麦の摂取量が多くて高血圧ではない群を「レスポンダー」、大麦の摂取量は多いが高血圧もしくは境界域高血圧に該当する群を「ノンレスポンダー」と定義した。両群の腸内細菌叢を比較することでレスポンダーに特徴的な菌種を特定し、それらが高血圧に対する大麦の影響を説明できるかどうか調べた。また腸内細菌叢からレスポンダーを推定できるかどうか解析した。

【方法】
対象は大麦加工販売会社の社員で40歳以上の130人。大麦の摂取量(g/日)は麦ごはんの摂取量、摂取頻度、大麦の配合比から算出した。食生活全般は簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)で調べ、単位エネルギーあたりの大麦の摂取量(g/1000kcal)を決定した。身体活動と喫煙習慣は質問票で調べ、血液検査の結果や血圧などの基本情報は健康診断の結果を用いた。

大麦摂取量の中央値(3.68g/1000kcal)に基づき、大麦高摂取群と大麦低摂取群に分けた(各65人)。大麦高摂取群は①収縮期血圧130㎜Hg以上、②拡張期血圧85㎜Hg以上、③高血圧の治療中、いずれか1つにでも該当する26人をノンレスポンダー、該当なしの39人をレスポンダーとした。

対象者が自宅で採取した糞便サンプルの16S rRNA解析を行い、α多様性の検討、主座標分析(PCoA)による腸内細菌の組成を検討した。交絡因子の影響を抑えるためのロジスティック回帰分析、ランダムフォレストを用いた機械学習によるレスポンダー予測モデルの構築も行った。

【結果】
レスポンダーとノンレスポンダーの間で大麦摂取量や摂取期間に有意差はなかった。年齢、体重、BMI、空腹時血糖値、LDL-コレステロール値はノンレスポンダーで有意に高かったため、高血圧に加え、糖尿病や脂質異常の高リスク群と考えられた。26人のノンレスポンダーのうち7人が高血圧薬を服用していた。血圧への影響が考えられる食塩摂取量、喫煙習慣、身体活動に群間差はなかった。

α多様性に関しては、ノンレスポンダーに比しレスポンダーでChao指数が有意に低く、Shannon指数は高い傾向にあった。PCoAでは、ノンレスポンダーに比しレスポンダーのPCo2は有意に低く、ノンレスポンダーと大麦低摂取群に有意差はなかった。

腸内細菌の相対存在比上位50属(>0.213%)において、レスポンダーはノンレスポンダーに比し、FaecalibacteriumLachnospiraRuminococcaceae UCG-013、Subdoligranulumが有意に高く、Prevotella 9とLachnoclostridiumが有意に低かった。

高血圧薬の服用者7人を除外して解析しても、上記6属すべてで群間差が認められた。また両親に高血圧歴があるとレスポンダーに特徴的な腸内細菌との関連性が弱まった。

レスポンダー予測モデルの構築に関しては、上位64属を説明変数とすると、AUC(感度と特異度から算出される推定能力)0.805、正解率77%だった。

【考察と結論】
レスポンダーはノンレスポンダーや低大麦摂取群に比しPCo2が大幅に低かったことから、レスポンダーに特徴的な腸内細菌叢の存在が示唆された。腸内細菌の相対存在比から、レスポンダーに特徴的な腸内細菌は結果に示す6属だった。

菌種の構成比率を考慮したShannon指数はノンレスポンダーで低い傾向にあったことから、一般的に優勢であるべき腸内細菌が枯渇しており、腸内細菌叢が乱れ、腸上皮における炎症を惹起している可能性がある。

先行研究において、高血圧患者ではPrevotella 9の存在比が高く、それによる炎症の出現が血圧上昇と関連することが示されている。※4レスポンダーのPrevotella 9の存在比が有意に低いという本研究の結果は、大麦の摂取と腸内細菌叢との関連を議論するうえで重要と考えられる。

腸内細菌の相対存在比がレスポンダーで高かった腸内細菌はいずれも短鎖脂肪酸産生菌であり、これらを豊富に有する人は血圧のコントロールに大麦の摂取が役立つと推測された。

【研究機関】
はくばく、医薬基盤・健康・栄養研究所、山梨大学

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

引用文献※2Prevotella/Bacteroides比は、大麦の摂取による血糖コントロールのレスポンダーの予測因子にならないことが、その後著者より報告された。今回の研究結果も興味深い内容であるが、コホート研究なので因果関係は明らかではない。今後の介入試験が期待される。

※1 Lancet 393, 434–445, 2019
※2 Cell Metab 22, 971–982, 2015
※3 Front Nutr 9, 812469, 2022
※4 Int J Mol Med 44, 513–522, 2019


Characteristic Gut Bacteria in High Barley Consuming Japanese Individuals without Hypertension
Microorganisms 11, 5, 1246, 2023

2023年6月19日掲載