大麦の摂取による耐糖能改善作用は
腸内の短鎖脂肪酸受容体GPR43を介する

【背景】
腸内発酵で産生する短鎖脂肪酸はGタンパク質共役型受容体43(GPR43)を活性化し、GLP-1の分泌を促す。その結果、インスリン抵抗性と耐糖能が改善する。※1

著者らはβ-グルカンを豊富に含む大麦の摂取がL細胞数の増加やGLP-1分泌の増加を促し、耐糖能を改善することを確認している。※2また、大麦の摂取が短鎖脂肪酸の増加を介してGLP-1などの腸内ホルモンの分泌を促し、インスリン抵抗性が改善したという報告もある※3しかし大麦の摂取による生理作用がGPR43のシグナル伝達を介するかどうかについて調べた研究報告はまだない。

本研究は、大麦の摂取による血糖値上昇抑制への、GPR43シグナル伝達の影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】
4週齢のC57BL/6J系のオスマウスおよびGPR43をノックアウトしたオスマウスを1週間馴化。それぞれ2群に分け(各群8~10匹)、高脂肪食(脂質エネルギー比50%)に高β-グルカン大麦の一品種である「ビューファイバー」の粉を添加した餌を与える群(HB、KO-HB)、セルロースを添加した餌を与える群(HC、KO-HC)に分け、12週間飼育した。総食物繊維量はいずれも5%となるように調整した。

体重と飼料摂取量の測定は週3回行い、最終週には経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った。OGTT開始15分から60分の線形直線から、グルコース消失率(K値)を決定した。飼育期間終了後に解剖し、各種生化学的検査、盲腸の重量の測定、盲腸、血清、糞便、門脈中の短鎖脂肪酸の濃度の測定、リアルタイムPCRによる肝臓と回腸のL細胞機能に関連するmRNAの発現分析を行った。また、L細胞モデルとなる消化管内分泌細胞株(GLUTag)を用いて、消化管ホルモンの分泌とGPR43の発現の関連を調べた。

【結果】
飼料摂取量、終体重、飼料効率はHBとHCの2群間で有意差はなかった。空腹時血糖値とHOMA-IR、OGTT開始15分後から120分後の血糖値、血糖曲線下面積はHCに比しHBで有意に低かったが、K値に有意差はなかった。血清インスリン濃度はHCに比しHBで低い傾向にあった。肝臓の糖代謝に関連する遺伝子のmRNA発現には有意差がなかった。

盲腸の重量、盲腸内容物中の酢酸やイソ酪酸、イソ吉草酸、吉草酸などいくつかの短鎖脂肪酸と総短鎖脂肪酸の濃度はHCに比しHBで有意に高かった。門脈における酢酸と総GLP-1の濃度はHCに比しHBで有意に高かった。

回腸におけるmRNAの発現レベルについて。プログルカゴンをGLP-1に変えるプロホルモン変換酵素1/3(Pc1/3)はHCに比しHBで有意に高く、Gpr43も高い傾向にあった。Pc1/3とGpr43の発現には正の相関があった。

HBの盲腸内容物の上清をGLUTagに添加すると、HCの場合に比し、総GLP-1の濃度が有意に高かった。この作用は、siRNAでGPR43をノックダウンした細胞ではみられなかった。HBの盲腸内容物の上清を添加したGLUTagでは、HCの場合に比し、GLP-1分泌を誘発するCa2+の濃度が有意に高かったが、ノックダウンした細胞では群間差がなかった。

KO-HBとKO-HCの盲腸の重量や盲腸内容物中のギ酸、酢酸、酪酸、コハク酸と総短鎖脂肪酸の濃度はKO-HCに比しKO-HBで有意に高かったが、血糖上昇曲線下面積と門脈における総GLP-1の濃度に有意差はなかった。

【考察と結論】
HBとHCのK値に差はなかったが、HBの血糖値と血清インスリン濃度は低かった。大麦の摂取により血糖値の上昇を抑えるのに適切なレベルのインスリンが分泌されたと示唆される。肝臓の糖代謝に関連する遺伝子のmRNA発現には有意差がなかったことから、耐糖能の改善は主に腸内でのGLP-1分泌によるものと考えらえる。

大麦の摂取により回腸におけるGpr43の発現が高くなる傾向にあった。L細胞モデルを用いた試験の結果でも同様の傾向が確認され、短鎖脂肪酸の増加によりGPR43シグナル伝達が活性化し、細胞内のCa2+濃度が上がり、GLP-1の分泌を誘発することが示唆された。

さらに、GPR43ノックアウトマウスでは、大麦の摂取による血糖値上昇の抑制および門脈における総GLP-1の増加が確認されなかった。従って、短鎖脂肪酸を介した GPR43 シグナルは、耐糖能の改善に寄与していることが示唆された。

以上より、大麦の摂取により腸内発酵が亢進し、GPR43の活性化を介した総GLP-1濃度の増加がインスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられる。

【研究機関】
大妻女子大学、東京農工大学、京都大学

※1 Nat Commun 4, 1829, 2013
※2 Nutrients 13, 527, 2021
※3 PLoS One, 2018, 13, e0196579


Consumption of barley flour increases gut fermentation and improves glucose intolerance via the short-chain fatty acid receptor GPR43 in obese male mice
Food Funct Published: 18 October 2022

2022年11月21日掲載