【背景】
β-グルカンを豊富に含む大麦やオーツ麦を摂取すると、消化管内容物の粘性が高まり、消化吸収が遅くなることで食後の血糖応答を抑えると考えられるが、大麦やオーツ麦のβ-グルカンの、血糖コントロールへの影響を比較した研究報告は限られている。また大麦あるいはオーツ麦の摂取が食欲に与える影響を比較した研究報告は1報しか確認できていない。※1この報告では各試験食中のβ-グルカン量が示されておらず、食欲への有意な影響はなかった。
本研究は、β-グルカンの摂取に最適な穀物である大麦とオーツ麦、それぞれの粉で作ったパン(順にBB、OB)の摂取が、食後の血糖応答と食欲に与える影響を比較することを目的とした。また精白小麦で作った白パン(WB)のみならず、総食物繊維量が大麦やオーツ麦と同等の全粒小麦のパン(WWB)を対照とすることで、食物繊維の摂取量とは独立したβ-グルカンの効用を明らかにする狙いもある。
【方法】
19歳から35歳までの健康な普通体重(BMI 18.5~25)の男女20人を対象とするランダム化クロスオーバー試験。対象者は、2日以上のウオッシュアウト期間を置き、BB、OB、WB、WWBそれぞれを、チーズやオリーブの実、ハチミツ、砂糖やミルクを含まない紅茶とともに朝食として15分以内で摂取した。
各食前と食後(15分、30分、45分、60分、90分、120分)の血糖値を自己血糖測定器で測定した。同じタイミングで食欲スコア(空腹感、満腹感、食べたい欲求、食べられる量)を視覚的アナログ尺度(VAS)で評価。これらを用いて平均食欲スコアを算出し、上昇曲線下面積(iAUC)として定量化した。特定の種類(甘い、塩辛い、おいしい、脂肪)の食べ物に対する欲求も評価した。嗜好性(見た目、におい、味、後味、全体的な嗜好性)は食後15分で評価した。
朝食開始の180分後に食欲スコアを計測後、昼食はほどよい満腹感が得られるまで自由摂取とし、食べた量を計測した。
パンは同じ形にスライスしたものを提供した。WBは色で認識できるため、WBとの比較は単盲検となるが、WWBとBB、OBの比較は二重盲検となった。
【結果】
対象者全員が試験を遂行し、消化器症状などの不調の訴えはなかった。各試験食摂取前の空腹時血糖値は同等だった。血糖上昇曲線下面積(血糖iAUC)はWBに比し、WWBで27.9%、BBで23.7%、OBで29.9%低かった。WBBとBB、OBにおける群間差はなかった。
各試験食摂取前の平均食欲スコアは同等だった。平均食欲スコアのiAUC(0~180分)はWB、WWB、OBに比し、BBでそれぞれ21.5%、23.9%、55.7%低かった。
BB摂取後は甘い食べ物への欲求がWB、WWB、OB摂取後よりも有意に低く、塩辛い食べ物への欲求がWWB、OB摂取後よりも有意に低かった。
嗜好性の評価では、後味を除く項目でWB、WWB、BBに比しOBで低く、後味はOBで高かった(口あたりが良くなかった)。
昼食におけるエネルギー摂取量、主要栄養素の組成、食物繊維量に群間差はなかった。
【考察と結論】
BBおよびOBはWBに比し有意に血糖応答を改善したがWWBとの差はなかった。本研究では、この効果がβ-グルカンに起因すると結論づけられない。分子量が異なるオーツ麦のβ-グルカンの摂取が血糖応答に与える影響を調べた先行研究では、高分子のβ-グルカンが有意に血糖応答を改善した。※2これを報告した研究者らは、食物繊維量が同じなら、クラッカー状のパンに比しグラノーラや粥の摂取が血糖応答を改善することも確認している。※3各穀物の構造や加工による影響が考えられる。
BBは総食物繊維量とは無関係に食欲の調整に寄与した。OBには同様の作用が認められず、また嗜好性の面で摂取しにくかった。BBはおいしく血糖応答と食欲をコントロールできる可能性がある。
【研究機関】
Erciyes大学(トルコ)、Nuh Naci Yazgan大学(トルコ)
※1 Appetite 80, 257–263, 2014
※2 Food Chem 129, 2, 297–304, 2011
※3 J Agric Food Chem 57, 19, 8831–8838, 2009
Effects of whole-grain barley and oat β-glucans on postprandial glycemia and appetite: a randomized controlled crossover trial
Food Funct 13, 19, 10225-10234, 2022
2022年10月28日掲載
【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】
大麦とオーツ麦を配合したパンの血糖応答と食欲におよぼす影響を比較した点では貴重な試験である。ただし両麦ともに全粒粉であったのか不明である。また、残念ながら利用可能な炭水化物量が揃っていないうえ(オーツ麦配合のパンが著しく少ない)、GI(グライセミック・インデックス)測定の標準である50gよりも少なく、血糖上昇抑制作用を正確に評価できたかは疑問である。麦ごはんおよび大麦粉ホットケーキによる食欲調節作用については、すでに報告している(Plant Foods Hum Nutr 69, 4, 325-330, 2014、肥満研究 26, 3, 339-347, 2020)。大麦とオーツ麦の差は、β-グルカンのみならず、アラビノキシランほか含まれる食物繊維の、腸内発酵性の差の可能性が考えられる。