大麦摂取で腸内の酪酸産生菌や耐糖能改善物質が増加
耐糖能が低い人に、より顕著な効果

【背景】
大麦のβ-グルカンは消化管内で食事由来の糖質や脂質を包み込み、消化・吸収を遅らせることで血糖値の急上昇を抑える。また先行研究から、大麦の摂取による腸内細菌叢の変動が耐糖能の改善に寄与すると考えられる。※1

大麦の摂取が耐糖能に与える影響には、遺伝的背景や人種差といった交絡因子が存在すると考えられるが、日本人を対象に検討した報告はない。本研究は大麦の摂取が日本人の腸内細菌叢および耐糖能に与える影響を定量的に評価することを目的とした。

【方法】
対象は50~69歳の日本人男女24人。大麦を約30%配合した雑穀ごはんを試験食、大麦を配合しない雑穀ごはんを対照食として、ランダム化二重盲検クロスオーバー試験を行った。被験者は試験食あるいは対照食を主食として1日2回、4週間食べ続けた。ウォッシュアウト期間は4週間とした。

1日分の試験食は大麦22gと雑穀米138g、465kcal、対照食は雑穀米150g、468kcal。試験食の大麦は、見た目が白米に類似する米粒麦を用いることでブラインド化した。

食事介入期間のベースライン(T1およびC1、T=試験食、C=対照食)と2週間後(T2、C2)、4週間後(T3、C3)に糞便を採取し、腸内細菌の16S rRNA解析とキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)法による全代謝物質の網羅的解析を行った。同じタイミングで、12時間の絶食後の各種生化学的検査、経口糖負荷試験(OGTT)を行った。
食事介入期間のベースライン(T1およびC1、T=試験食、C=対照食)と2週間後(T2、C2)、4週間後(T3、C3)に糞便を採取し、腸内細菌の16S rRNA解析とキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOFMS)法による全代謝物質の網羅的解析を行った。同じタイミングで、12時間の絶食後の各種生化学的検査、経口糖負荷試験(OGTT)を行った。

24人全員が試験を完了したが、禁止された発酵食品などの摂取やサンプル採取の不備などから除外された5人を除く19人を解析対象とした。

【結果】
OGTTにおける血糖曲線下全面積(血糖AUC)、血糖上昇曲線下面積(血糖iAUC)、インスリン曲線下全面積(インスリンAUC)、インスリン上昇曲線下面積(インスリンiAUC)、空腹時血糖値、空腹時インスリン値、そして排便回数のいずれも、T2とC2、T3とC3で有意差はなかった。

各腸内細菌、各代謝産物の相対存在量についてT1とT3、C3とT3を比較した(ウィルコクソンの符号順位検定)。腸内細菌はT1に比しT3でBlautiaAgathobacterFusicatenibacterなどの占有率が有意に多かった。代謝産物はT1に比しT3、C3に比しT3のいずれでもアゼライン酸やプロピオン酸イミダゾールが有意に多く、パラキサンチンや6-ヒドロキシニコチン酸が有意に少なかった。

大麦の摂取による血糖AUC、血糖iAUC、インスリンAUC、インスリンiAUCの改善度、レスポンダースコア(数字が小さいほど耐糖能が改善)は、下記の計算式で算出した。

レスポンダースコア = ((T3 − T1) − (C3 − C1)) / (C1とT1の平均)

ベースラインにおける血糖AUCおよびiAUCやインスリンAUCおよびiAUCが高い(耐糖能が低い)ほど大麦摂取による改善が認められた(レスポンダースコアが低かった)。血糖AUCや血糖iAUCの改善はベースラインでのインスリンAUCやインスリンiAUCに依存せず、逆も同様だったことから、血糖値とインスリン値の改善は互いに独立していると示唆される。

T2、T3におけるAnaerostipesが増加した人ほど血糖AUCと血糖iAUCが改善した(レスポンダースコアが低かった)。

【考察と結論】
大麦の摂取により、肥満や糖尿病などメタボリックシンドローム関連疾患のマーカーであるBlautiaや酪酸産生菌の1種であるAgathobacterが増加した。

有意に増加したアゼライン酸は、大麦をはじめとする穀物全般に含まれる栄養素なので、腸内細菌の代謝による増加ではないかもしれない。しかし動物試験ではアゼライン酸の投与による血糖改善効果が確認されており※2、大麦の摂取による耐糖能改善に関わると示唆される。

ベースラインにおける耐糖能が低いほど大麦の摂取による耐糖能の改善効果が認められ、耐糖能が改善した人ほど酪酸産生菌の1種であるAnaerostipesが増加した。

ただし本研究では酪酸の有意な増加はみられなかった。酪酸は腸内で速やかに吸収されエネルギー源として消費されるため、糞便中の酪酸レベルが変化しなかった可能性がある。

【研究機関】
はくばく、メタジェン、慶應義塾大学、東京工業大学、神奈川県産業技術総合研究所、筑波大学

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

大麦の摂取が、日本人の腸内細菌叢と耐糖能に及ぼす影響を調べた貴重な介入試験である。βーグルカンとアラビノキシランの1日の摂取量が欲しいところである。腸内細菌叢への寄与はアラビノキシランの方が大きい可能性がある。また、エンテロタイプで耐糖能の応答が変わる可能性があるが、そのような分類がなされていなかったので、今後に期待したい。

※1 Cell Metab 22, 971–982, 2015
※2 Biochimie 95, 1239–1244, 2013


Metabologenomic Approach Reveals Intestinal Environmental Features Associated with Barley-Induced Glucose Tolerance Improvements in Japanese: A Randomized Controlled Trial
Nutrients 14, 17, 3468, 2022

2022年9月27日掲載