大麦の摂取はビフィズス菌と酪酸産生菌を増やす
日本人対象の横断研究で確認

【背景】
大麦の摂取による腸内細菌叢の変化が、宿主の健康状態を改善するという報告は多数ある。日本人は伝統的に大麦を食べてきたが、大麦の摂取量が腸内細菌叢に与える影響に焦点を当てた研究はほとんどない。本研究では、日本人を対象に大麦の摂取量と腸内細菌叢の関係を明らかにすることを目的とした。

【方法】
対象は大麦加工販売会社の社員272人。大麦の摂取量(g/日)は麦ごはんの摂取量、摂取頻度、大麦の配合比から算出した。食生活全般は簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)で調べ、単位エネルギーあたりの大麦の摂取量(g/1000kcal)を決定した。身体測定値、生化学的マーカー、血圧は健康診断の結果で、服薬状況や病歴、発酵食品やサプリメントの摂取状況は質問票で調べた。

対象者が自宅で採取した糞便サンプルの16S rRNA解析を行い、α多様性の検討、エンテロタイプの分類(注)、主座標分析(PCoA)による腸内細菌の組成を検討した。大麦の摂取量で高摂取群と低摂取群に分け、大麦摂取量を独立変数、腸内細菌を目的変数とする重回帰分析を行った。

(注)論文中に記載はないが、既報※1に従いバクテロイデス(A)、ルミノコッカス(B)、プレボテラ(C)に分類した。それぞれのエンテロタイプと最も関連が高い腸内細菌はそれぞれBacteroidesBlautiaPrevotella 9だった。

【結果】
糖尿病、高血圧症、脂質異常症、およびそれぞれの前段階に該当する対象者を除く94人を解析対象とした。大麦の摂取量は、高摂取群47人で7.7±4.8g/1000kcal、低摂取群47人で1.5±1.2g /1000kcalだった。

高摂取群と低摂取群で、性別、年齢、BMI、血圧、空腹時血糖値、HbA1c、中性脂肪値、コレステロール値に有意差はなかった。高摂取群は低摂取群に比し、穀類の摂取量が有意に多く、豆類の摂取量が多い傾向にあり、砂糖や甘味料、嗜好飲料の摂取量が有意に少なかった。

エンテロタイプはA、B、Cの順に高摂取群が10人、33人、4人、低摂取群が16人、23人、8人。両群ともBが優勢でA、Cと次いでおり、両群に有意差はなかった。PCoAでは、AとBがPCoA1の負の方向に、Cが正の方向に分布した。AとBはPCoA2で分けられ、BはAとCの中間に位置した。高摂取群はPCoA2の正の方向に分布する傾向にあった。

α多様性は群間差がなかった。高摂取群は低摂取群に比し、性別、年齢、リスク因子による調整後もビフィズス菌(Bifidobacterium)と酪酸産生菌の1つであるButyricicoccusの存在量が有意に多く、穀類や豆類、砂糖や甘味料、嗜好飲料の摂取量で調整後もBifidobacteriumの存在量は有意に多かった。腸内細菌と大麦のネットワーク分析では、BifidobacteriumButyricicoccusRuminococcus 2、Ruminococcaceae UCG-013、LachnospiraTyzzerella 3が大麦の摂取に関連した。

【考察と結論】
大麦の摂取は腸内のビフィズス菌と酪酸産生菌を増やす可能性が示唆された。α多様性に変化がなかったため効果は限定的かもしれないが、この2つの菌が高摂取群に特徴的な腸内細菌と言える。特にビフィズス菌は、食事因子で調整後も高摂取群で有意に多かったので、大麦の摂取により確実に増えると考えられる。

本研究は大麦加工販売会社の社員を対象者としている。健康診断の前後で食生活や生活習慣を変えないように指導したものの、行動変容が生じた影響は否めない。

ただし消費者調査データから、大麦を定期的に摂取する人は日本の人口の約15%で、1人あたりの平均摂取量は1.0g/日と推定される。本研究の対象者は平均4.6g/日を摂取しており、大麦の摂取量の影響を評価するには妥当な集団だった。

今後は縦断コホートを用いて、大麦の摂取量と腸内細菌叢や短鎖脂肪酸の産生量の関係、宿主の健康状態に与える影響などの検討も必要と考える。

【研究機関】
はくばく、山梨大学、医薬基盤・健康・栄養研究所

※1 Nature 473, 7346, 174–180, 2011

Relationships between barley consumption and gut microbiome characteristics in a healthy Japanese population: a cross-sectional study
BMC Nutr 8, 1, 23, 2022

2022年4月21日掲載