大麦の摂取で収縮期血圧とHbA1cが低下傾向
社員食堂での自由摂食を客観評価

【背景】
大麦や大豆、緑茶の摂取は、多数のランダム化比較試験とメタ解析からメタボリックシンドローム(以下、メタボ)のリスク低減に寄与することが示されている。しかし、これまでのランダム化比較試験は、高用量かつ短期間の摂取という実験環境での有効性を検証したものがほとんどであり、これらの食品を実生活で摂取した場合の効果は明らかではない。そこで本研究は、自由に料理が選べるカフェテリア方式の社員食堂(以下、食堂)における大麦、大豆、緑茶の摂取が、メタボ関連の指標となる各測定値に与える影響を調べることを目的とした。

【方法】
対象は自動車メーカー勤務の男性従業員。2018年10月から2019年6月に健康診断を受診し、同7月の食堂への試験食導入後に食堂を利用したことがあり、2019年10月から2020年9月に再度健康診断を受診した890人(平均39.9歳)を解析対象とした。食堂での喫食内容は、再度の健康診断前12週間を追跡した。健康診断では各種身体測定(BMI、血圧)と血液検査(LDL-コレステロール値、HDL-コレステロール値、中性脂肪値、HbA1c)を行った。

試験食は麦ごはん(もち麦50%、茶碗1杯に約3.0gのβ-グルカン入り)、大豆製品(豆腐と納豆、1皿で約6gの大豆たんぱく入り)、緑茶(200mlに約218.4㎎の緑茶カテキン入り)。食堂の卓上には試験食の機能性に関するポップを設置した。

食堂で使用するすべての食器には献立情報と紐づいたICチップが埋め込まれていた。食堂利用者は喫食するものを自由にトレーにとり、清算用の自動読み取り機にトレーを置き、社員IDカードで支払いを行う。すると、個々人の食事情報が自動的かつ客観的に収集される。ただし食べ残しの情報は記録されない。

試験食1品あたりの値段は、麦ごはん100円、豆腐60円、納豆100円で、緑茶は無料で提供した。なお白米ごはんは80円だった。

【結果】
解析対象890人の食堂利用回数の平均は週3.0回。追跡期間中、454人(51%)は平均週4回以上食堂を利用したが、115人(12.9%)は1度も利用しなかった。

追跡期間中に食堂を利用した775人の、各試験食の摂取頻度は以下の通り。

追跡期間中に食堂を利用した775人の、各試験食の摂取頻度

試験食の摂取と健康診断の結果の関連について。麦ごはんの摂取が1回増えると収縮期血圧は0.11mmHg低下(P=0.097)、HbA1cは0.003%低下(P=0.082)する傾向がみられた。大豆製品の摂取が1回増えるとLDL-コレステロール値は0.16mg/dL低下するという有意な変化があった(P<0.05)。緑茶の摂取は関連がみられなかった。

【考察と結論】
自由意志での食品摂取において、麦ごはんの摂取は収縮期血圧とHbA1cをわずかに低下させる傾向がみられ、大豆製品の摂取はLDL-コレステロール値を有意に下げた。

本試験は観察研究であり、主に平日の昼食のみ評価しているため、昼食や夕食などの影響が考慮できていない。食べ残しの量が評価できないという限界もある。また3つの試験食の中で、特に麦ごはんは十分に摂取されなかった。

今後は積極的な摂取の推奨によって試験食の摂取を増やせるかどうか、それがメタボの関連指標の改善につながるかなど、長期的な影響を調べるための研究が必要である。

【研究機関】
金城学院大学、福岡女子大学、トヨタ自動車、浜松医科大学

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

自由意志での麦ごはんの摂取が、健康診断時の測定値にどの程度影響するか検討した調査である。残念ながら、本結果をもって麦ごはん選択による有効性を示すことはできなかった。一番大きな課題は、自由意志では麦ごはんを選択する人は非常に少なかったということである。今後、麦ごはんを選択する機会を増やすための工夫が必要であろう。

Association between functional foods and cardiometabolic health in a real-life setting: a longitudinal observational study using objective diet records from an electronic purchase system
Food Funct Published: 31 January 2022

2022年3月16日掲載