【背景】
酪酸産生菌が腸内で産生する短鎖脂肪酸の1種である酪酸は、過剰な炎症反応を抑え、慢性疾患の発症を予防する可能性が指摘されている。大麦の1品種である「BARLEYmax(バーリーマックス)」は、一般的な大麦に比し食物繊維を約2倍、レジスタントスターチを約4倍含み、糞便中の短鎖脂肪酸濃度を増やすというヒト試験の報告がある。※1しかし特に酪酸に着目し、ヒトの腸内細菌叢への影響を分析した研究はなかった。そこで本研究では、バーリーマックスが健常者の腸内の酪酸産生菌を増やし、糞便中の酪酸濃度を上昇させるかどうかについて評価した。
【方法】
対象は20人の健康な男女(18~65歳)。バーリーマックスを含む40gのグラノーラを1日1回、週4日以上、4週間摂取させた。摂取のタイミングや摂取方法は指示しなかった。摂取開始前(pre)、開始1カ月後(post)、摂取期間終了から1カ月後(1M)の糞便を採取し、腸内細菌の16S rRNA解析と含まれる短鎖脂肪酸濃度の測定を行った。
40gのグラノーラには、20.4gのバーリーマックスのほか、黒糖シロップやオーツ麦、玄米パフ、ドライフルーツなどが含まれる。エネルギー量は169kcalで、食物繊維は5.72g(うちβ-グルカン1.2g、フルクタン2.32g)、レジスタントスターチは0.48g。
【結果】
試験期間中に抗生物質を服用した2人を除く18人を解析対象とした。年齢の中央値は35.9歳、BMIの中央値は22.0。対象者のうち14人はアレルギー性鼻炎、1人はアトピー性皮膚炎の有症者だった。12人はプロバイオティクス食品(ヨーグルト、チーズ、味噌、漬物、ドリンク剤、サプリメント)を週4回以上摂取していた。グラノーラ摂取期間中に対象者がグラノーラを摂取した日数の割合は78%(64~93%)だった。
16S rRNA解析の結果、pre、post、1Mで細菌種の数、種の多様性の指標となるShannon指数、Simpson指数に有意差はなかった。腸内細菌叢の相違度の指標となるBray-Curtis距離も有意差はなかった。
腸内細菌の分類としては、目レベルではClostridialesとBacteroidalesが優勢だった。preでは33%だったClostridialesはpostでは30.4%に減り、Bacteroidalesは16.1%から19.5%に増えたが有意な差ではなかった。酪酸産生菌の割合はpreの5.9%からpostは8.2%へと大幅に増加したが、1Mではpreと同レベルの5.4%に減少した。
糞便中の酪酸濃度はpreの0.99mg/g からpostは1.43mg/g に上昇し、1Mでは0.87mg/gに減少した。プロピオン酸は同1.16mg/g→1.82mg/g→1.00mg/g、酢酸は同2.79mg/g→4.63mg/g→2.85mg/g。preからpost、postから1Mへの変化はいずれも有意だった。
【考察と結論】
バーリーマックスは腸内細菌叢を実質的に変化させることなく酪酸産生菌の割合を増やし、糞便中の酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸の濃度を増加させた。含まれるβ-グルカンやフルクタン、レジスタントスターチがプレバイオティクスとして機能し、酪酸産生菌が増加したと考えられる。
バーリーマックスの摂取によりBacteroidalesが増え、Clostridialesが減る傾向がみられたが有意ではなかった。しかし、ラットを用いた先行研究では、バーリーマックスの摂取により遠位結腸消化物のBacteroidetes門(Bacteriodales目を含む)が増え、Firmicutes門(Clostridiales目を含む)が減るという結果が得られており、※2本研究の結果に一致する。
本研究では、アレルギー性疾患を持つ対象者が多かったが(15人、83%)、最近の報告によると、日本人集団におけるアレルギー性疾患の有症者は約50%で、アレルギー性鼻炎が主である。※3今回の結果を健康な成人集団に当てはめるのは、それほど的外れなことではないと考えられる。
バーリーマックスの摂取による腸内の酪酸産生菌や酪酸の増加は、さまざまな慢性疾患の予防と治療に役立つことが期待される。
【研究機関】
関西医科大学、帝人、バイオパレット
※1 Br J Nutr 99, 1032–1040, 2008
※2 PLoS One 14, 6, e0218118, 2019
※3 Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho 123, 485–490, 2020
Fiber-Rich Barley Increases Butyric Acid-Producing Bacteria in the Human Gut Microbiota
Metabolites 11, 8, 559, 2021
2021年10月26日掲載
【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】
日本人を対象とした大麦の介入試験で腸内細菌叢を調べた研究は少ないため貴重なデータである。バーリーマックスの摂取により、糞便中の酪酸濃度が増加したことはポジティブな結果であるが、腸内細菌叢の有意な変動は見られていない。酪酸産生菌の比率が有意に増加したと記載されているが、どの菌が増えたのか不明であるうえ、プラセボ群が無いのでバーリーマックスの効果であるとは言い切れない。残念ながら、CONSORT声明に則った試験ではない(ランダム化比較試験ではない)ので、プラセボ群を置いての今後の検討が待たれる。