頭痛、疲労、不安感……消化器関連以外の症状を
オーツ麦β-グルカンが軽減する可能性


【背景】
食物繊維が豊富なオーツ麦の摂取は、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促し、有用な腸内細菌の増加に寄与する。こうした変化は全身の酸化ストレスや炎症状態に影響を及ぼし、身体的、精神的な機能にまで関わると考えられる。先行研究では、食物繊維量の多いシリアルの摂取が健常人の倦怠感を低減する、※1食物繊維量の多い低GI(グライセミック・インデックス)の食事が2型糖尿病患者の頭痛、関節や手足の痛み、うつ症状を改善するという報告がある。※2また、オーツ麦β-グルカンの投与がラットの持久力を高め、抗疲労の指標となる血清中の代謝物が増えるという報告もある。※3しかしオーツ麦β-グルカンの消化器関連以外の諸症状に対する効果については情報が不足している。

そこで本研究では、オーツ麦加工品の摂取による血清LDL-コレステロール値の低減作用を検討した研究データを利用し、消化器関連以外の諸症状へのオーツ麦β-グルカン摂取の影響を検討することを目的とした。

【方法】
境界域高LDLコレステロール血症(3~5mmol/L、日本の基準とは異なる)の男女207人(平均年齢47.6±11.4歳、BMI 27.9±4.6)を対象とするランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った。オーツ麦β-グルカン摂取群(Test)は104人(解析対象は96人)、プラセボ摂取群(C)は103人(同95人)。性別、民族性、各種血清脂質値、空腹時血糖値のいずれも両群で有意差はなかった。

Testは1gのオーツ麦β-グルカンを含むオーツ麦粉を、Cはβ-グルカンを含まない玄米粉を240mlの冷水に懸濁したものを1日3回4週間、3時間以上の間隔をあけて可能な限り食事の直前あるいは10分前までに摂取した。試験飲料の見た目、味、香りは類似していた。

試験前、2週目、4週目に各種生化学検査を行い、参加者は27の症状(11の消化器関連症状と16の非消化器関連症状)を0~3の4段階で評価した。16の非消化器関連症状のうち、0~4週目のいずれも有症者が10%未満の4症状を除く12の症状(頭痛、倦怠感、食欲不振、疲労困憊感、不安感、エネルギー不足、関節や手足の痛み、集中力の低下、寒気、ホットフラッシュ、憂鬱感、緊張感)を比較した。

【結果】
12の非消化器関連症状の有症率は、試験前、2週目、4週目のいずれについても、両群で有意差はなかった。ただしTestでは試験前に比し倦怠感の4週目、疲労困憊感の2週目で有意に有症者が少なかった。

症状の程度は、Cに比しTestで頭痛の2週目、寒気の4週目で有意に、不安感の2週目で低い傾向にあった。試験前に比し症状の程度が有意に低かった症状は以下の通り。倦怠感(Testの4週目)、疲労困憊感(Testの2週目、4週目、Cの4週目)、不安感(両群の2週目、4週目)、エネルギー不足(両群の2週目、4週目)、関節や手足の痛み(Testの2週目)、集中力の低下(Testの2週目、4週目)、寒気(Testの4週目、Cの2週目)、ホットフラッシュ(Testの4週目)、緊張感(両群の2週目、4週目)。

C反応性タンパク(CRP)や酸化LDL(oxLDL)と症状の関連について。試験前に比し4週目でCRPが増加しなかった参加者では、TestよりもCで頭痛の程度が有意に高かった。CRPが増加した参加者は、CRPが増加しなかった参加者に比し有意に疲労困憊感の程度が高かったが、CとTestで差はなかった。oxLDLが増加した参加者と増加しなかった参加者で倦怠感の程度に差はなかったが、oxLDLが増加しなかった参加者では、TestよりもCで倦怠感の程度が高い傾向にあった。ホットフラッシュの程度はoxLDLが増加した参加者で有意に高かったが、CとTestで差はなかった。

【考察と結論】
頭痛の原因はよくわかっていないが、低血糖や肥満、炎症の関与が考えられる。倦怠感も炎症の増加に媒介される可能性がある。

不安感の程度は2週目でCに比しTestで低い傾向がみられた。先行研究においても、プロバイオティクス製剤の投与による腸内細菌叢の改善が不安感の軽減につながることが動物試験やヒト試験で示されている。※4

ホットフラッシュについて。酸化ストレスの増加がホットフラッシュの程度に関連するという報告がある。※5こうした更年期の症状が酸化ストレスの原因か結果かについては定かではないが、※6oxLDLの増加とホットフラッシュの程度に相関がみられたのは興味深い。

オーツ麦β-グルカンの摂取は、いくつかの感情や身体感覚に有益な影響をもたらす可能性がある。

【研究機関】
INQUISクリニカル・リサーチ(カナダ)、ペプシコ栄養研究開発センター クエーカー・オーツ・センター・オブ・エクセレンス(米国)

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

血中脂質代謝と脳が感知する諸症状について議論する際は、血液脳関門が存在するために脳内の制御は体循環系とは異なることに注意が必要である。したがって、血中酸化ストレスの変動と疲労感や不安感との直接的な因果関係を証明することは難しい。しかし、血中脂質代謝改善が脳機能に影響を及ぼすエビデンスは多く存在するため、メカニズムの解明が課題である。

※1 Appetite 37, 249–50, 2001
※2 Can J Diab 41, 164–76, 2017
※3 Carbohydr Polym 92, 1159–65, 2013
※4 Brit J Nutr 105, 755–64, 2011
※5 PLoS ONE 14, e021426, 2019
※6 Clin Chem Lab Med 54, 739–53, 2016


Effect of Oat β-glucan on Affective and Physical Feeling States in Healthy Adults: Evidence for Reduced Headache, Fatigue, Anxiety and Limb/Joint Pains
Nutrients 13, 5, 1534, 2021

2021年6月2日掲載