β-グルカンが豊富な大麦はGLP-1分泌の増加を介して耐糖能を改善


【背景】
著者らは大麦の摂取が腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促すことを動物試験で確認しているが、※1この試験では消化管ホルモン分泌量の測定は行わなかった。先行研究では、大麦の摂取によってGLP-1の分泌が増加し、腸内細菌叢の変化と短鎖脂肪酸量の増加を介しインスリン抵抗性が改善することが示されている。※2一方、大麦β-グルカンの摂取により盲腸での発酵が促されたものの耐糖能やインスリン分泌には影響しなかったという報告もある。※3

そこで本研究は、耐糖能を改善するメカニズムが、β-グルカンを豊富に含む大麦(以下、高β-グルカン大麦)のGLP-1分泌の増加作用に起因するかどうか明らかにすることを主な目的とした。

【方法】
5週齢のC57BL/6J系のオスマウスを1週間馴化。高脂肪食(脂質エネルギー比50%)に高β-グルカン大麦の一品種である「キラリモチ」の粉を添加した餌を与える群(HGB)、セルロースを添加した餌を与える群(C)、各群8匹を83日間飼育した。総食物繊維量はどちらも5%となるように調整した。

体重と飼料摂取量の測定は週3回行い、最終週には経口糖負荷試験(OGTT)を行った。飼育期間終了後に解剖し、各種生化学的検査、肝臓、盲腸、脂肪組織の重量の測定、回腸におけるリアルタイムPCR法によるmRNA発現分析とL細胞数の測定を行った。一連の試験は2回行ったが、1回目では門脈と盲腸のGLP-1濃度を、2回目では盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量を評価した。2回目では成長記録、臓器重量の測定、OGTTも行った。

【結果】
体重、飼料摂取量、飼料摂取効率は2群間で有意差はなかった。肝臓と脂肪組織(後腹膜、精巣上部、腸間膜脂肪)の重量は2群間で有意差はなかったが、消化物を含む盲腸の重量はCに比しHGBで有意に重かった。上記のいずれも1回目の試験と2回目の試験では同様の結果が出た。

血清の総コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸、グルコース、インスリン、レプチンの濃度は2群間で有意差はなかった。

OGTTでは、1回目は15分値と60分値、2回目は30分値と60分値がCに比しHGBで有意に低値だった。血糖上昇曲線下面積(AUC)は1回目も2回目もCに比しHGBで有意に低値だった。

盲腸内容物中の総短鎖脂肪酸、酢酸、プロピオン酸の量はCに比しHGBで有意に多かった。門脈と盲腸のGLP-1濃度はCに比しHGBで有意に高かった。

回腸におけるmRNAの発現レベルについて。NeuroDはCに比しHGBで有意に高かった。プログルカゴン(PGCG)、プロホルモン変換酵素1/3(PC1/3)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体β/δ(PPARβ/δ)、Gタンパク質共役型胆汁酸受容体1(GPBAR1)、Gタンパク質共役型受容体43(GPR43)、ニューロゲニン3(NGN3)はいずれも有意差がなかった。

回腸のL細胞数はCに比しHGBで有意に多かった。

【考察と結論】
高β-グルカン大麦を含む高脂肪食によりマウスの耐糖能が改善したのはGLP-1分泌の増加によるものと示唆された。

mRNA発現レベルは、GLP-1の前駆体であるPGCG、PGCG をGLP-1に変換するPC1/3、回腸におけるGLP-1分泌に関わるPPARβ/δのいずれもCとHGBで有意差がなかったが、L細胞数を反映するNeuroDはCに比しHGBで有意に高かった。

本研究は、GLP-1分泌に関連するmRNAの発現を変化させることなく、GLP-1分泌の増加を引き起こす回腸のL細胞数の増加を初めて確認した。著者らの先行研究※1の結果も踏まえると、L細胞数の増加、それに続くGLP-1レベルの上昇は短鎖脂肪酸の産生により誘導されたと考えられる。

【研究機関】
大妻女子大学

※1 Nutrients 12, 11, 3546, 2020
※2 PLoS One 13, e0196579, 2018
※3 Nutr Res 35, 2, 162-8, 2015


High β-Glucan Barley Supplementation Improves Glucose Tolerance by Increasing GLP-1 Secretion in Diet-Induced Obesity Mice
Nutrients 13, 2, 527, 2021

2021年3月22日掲載