大麦粉ホットケーキの摂取で次の食事のエネルギー摂取量が減少


【背景】
大麦β-グルカンは胃内容物の膨潤、胃内滞留時間の延長、食欲調整ホルモンの分泌を介した満腹感の持続作用を有することが知られる。先行研究には、朝食あるいは昼食で大麦を含む食事をとると次の食事の際の食欲や食後の血糖上昇が抑制されるという報告がある。※1※2

著者らは大麦と白米が1:1の麦ごはんの摂取により内臓脂肪面積の低減などのメタボリックシンドローム改善作用が得られることを確認している。※3しかし、大麦粉を用いた食品の摂取が麦ごはんの摂取と同様に食欲を抑え、次の食事のエネルギー摂取量を減らすか否かは明らかではない。そこで本研究は、健康な日本人男女を対象に、大麦粉を用いたホットケーキの摂取が食欲とエネルギー摂取量に与える影響について検証した。

【方法】
対象は20~59歳の健康な男女27人で、大麦粉ホットケーキ(試験食)と小麦粉ホットケーキ(対照食)を用いたランダム化二重盲検クロスオーバー試験を行った。ウォッシュアウト期間は1週間以上とした。

試験食と対照食はどちらも約200g、エネルギー量は約2000kJ、含まれる糖質、脂質、たんぱく質の量は同じで、食物繊維量は試験食が5.1g、対照食が1.9g、β-グルカン量は試験食が2.7g、対照食では検出されなかった。

試験日の9時30分に朝食として試験食または対照食を水200mlともに30分以内に食べ、食前および食後30分ごとに、14時の昼食までと昼食後30分に、食欲(空腹感、満腹感、次の食事での予想食事量、満腹感)を100㎜の線からなるビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて評価した。昼食はハヤシライスで、適度な満腹感が得られるまで自由に摂取した。

【結果】
解析対象は試験を完了した25人(平均年齢31.6±7.2歳、BMI21.6±2.7)。空腹感のVAS評価値は朝食後両群で急激に低下し経時的に上昇したが150~270分値は対照食に比し試験食で有意に低かった。空腹感と相関する予想食事量のVAS評価値も同様で150分値、240分値、270分値で有意差が認められた。満腹感は朝食後両群で急激に上昇し経時的に低下したが、120分値と210~270分値で対照食に比し試験食で有意に高かった。満腹感と相関する満足感も同様で30分値、90分値、180分値、210分値で有意差が認められた。30~270分の曲線下面積(AUC)をグラフに示す。昼食のエネルギー摂取量は対照食に比し試験食で12.3%少なく、有意差が認められた。

第74回日本栄養・食糧学会大会 2020年9月28日~10月4日オンライン大会発表時のスライドより発表者の許可を得て引用

【考察と結論】
ほとんどの食物繊維は単回摂取では食欲やエネルギー摂取量の低減作用がないとする報告もあるが、※4今回の結果から、大麦β-グルカンを一定量含有する食品は単回摂取でもこれらの低減作用が得られる可能性が示された。しかし、大麦β-グルカンの食欲とエネルギー摂取量への影響に関するこれまでの研究結果には一部不一致もみられる。これは各研究で使用した大麦β-グルカンの量、調製法(分子量など)、摂取形態の違いが胃内滞留時間や消化吸収速度に影響するためと考えらえられる。

著者らの先行研究では、麦ごはんは白米ごはんに比し空腹感と予想食事量のVAS評価値を低下させ、次の食事のエネルギー摂取量を減らすことを確認している。※5今回はホットケーキという大麦粉焼成品の形態で同様の結果が得られた。β-グルカンを含む大麦の摂取は粒の形態でも粉の形態でも同様の効果が認められることを日本人で初めて証明した。なお本試験に用いた大麦粉ホットケーキのβ-グルカン量は1食あたり2.7gで、麦ごはんを用いた先行研究※5の同2.9gとほぼ一致している。

β-グルカンを含む大麦粉の加工品は、肥満や肥満関連代謝性疾患の予防や治療に有益な役割を果たす可能性が示唆された。

【研究機関】
昭和産業、大妻女子大学

※1 Food Funct 3, 1, 67-75, 2012
※2 Appetite 53, 3, 338-44, 2009
※3 Nutrition 42, 1-6, 2017
※4 J Am Coll Nutr 32, 3, 200-11, 2013
※5 Plant Foods Hum Nutr 69, 4, 325-30, 2014


大麦粉含有ホットケーキが健康な日本人の食欲とエネルギー摂取に及ぼす効果―二重盲検無作為化クロスオーバー試験
肥満研究 26, 3, 339-47, 2020

2021年2月17日掲載