【背景】
プレバイオティクスとプロバイオティクスを組み合わせて摂取するシンバイオティクスは、メタボリックシンドロームの予防や改善に有効な食事法として注目を集めている。本研究では、β-グルカンを豊富に含む大麦をプレバイオティクスとし、プロバイオティクスは大麦の難消化性糖質を発酵する菌を選定。これらを配合した高脂肪食をマウスに給餌し、シンバイオティクス効果を検証することを目的とした。
【方法と結果】
プロバイオティクス選定のためのin vitro試験
Clostridium butyricum、Streptococcus faecalis、Lactobacillus casei、Lactobacillus plantarumそれぞれの培養液に、グルコースを添加した場合、酵素分解により糖質と蛋白質を除去した大麦を添加した場合、計8サンプルの培養液のpH、濁度、短鎖脂肪酸濃度を分析し、発酵度を比較した。
大麦を添加したLactobacillus plantarum(L. plantarum)の培養液のpHは、グルコースを添加した場合と同程度に低下していたため短鎖脂肪酸の生成が推測された。また2つのL. plantarum培養液は著しく混濁しており菌の増加が示唆された。総短鎖脂肪酸濃度は、2つのL. plantarum培養液で他の培養液よりも著しく高値を示した。そこでpHの上昇、濁度の上昇、短鎖脂肪酸の生成が認められたL. plantarumを本研究のプロバイオティクスに選定した。
シンバイオティクス効果検証のための動物実験
4週齢のC57BL/6J系のオスマウスを1週間の馴化ののち、脂肪エネルギー比50%の高脂肪食を与えるC群、もち性大麦のホワイトファイバーを添加した高脂肪食を与えるB群、プロバイオティクスとしてL. plantarum 284株を添加した高脂肪食を与えるP群、ホワイトファイバーとL. plantarum 284株を添加した高脂肪食を与えるBP群の4群(各8匹)にわけ、飼料と水は自由摂取で12週間飼育。なお各飼料の食物繊維量は5%となるように調整した。飼育中は体重と飼料摂取量を測定し、解剖前に経口糖負荷試験を行い、解剖後は盲腸内の短鎖脂肪酸の濃度、血清脂質、肝臓脂質、糞中脂質、盲腸内細菌叢について調べた。
以下にC群との有意差が認められた結果と考察をまとめる。
終体重: B群とBP群で低値、BP群で最も低値。
体重増加量:BP群で低値。
酢酸とプロピオン酸の濃度:BP群で高値。
総短鎖脂肪酸の濃度:B群とBP群で高値、BP群で最も高値。
経口糖負荷試験:グルコース投与後の15分値、30分値、60分値、120分値がBP群で低値。BP群で増加した酢酸とプロピオン酸はGPR43を介し、GLP-1の分泌を促進し、インスリン抵抗性を改善するという報告がある。同様のメカニズムが推測される。
肝臓脂質:中性脂肪とコレステロールの濃度がB群、P群、BP群で低値。BP群で最も低値。交互作用あり。
糞中脂質:総脂質排泄量はBP群で高値。みかけの消化吸収率はBP群で低値。交互作用あり。菌体と胆汁酸の吸着によるミセル形成の阻害と大麦β-グルカンによる脂質の消化吸収阻害の相乗作用が推測される。
盲腸内細菌叢:総腸内細菌数はBP群で高値となり、Bacteroidetes門の増加が関連していた。属レベルではBacteroidetes門ではBacteroides属においてB群で高値、P群で低値。Prevotella属においてP群で高値となった。Fermicutes門ではLactobacillus属とClostridium leptum subgroupにおいてBP群で高値。Lactobacillus属が酸性する乳酸はB群とBP群で有意に増加しており腸内細菌の寄与が考えられた。一方、Clostridium属が産生する酪酸では群間差がみられなかった。盲腸内容物中ではなく、たとえば糞中では酪酸量が増加している可能性が考えられる。Actinobacteria門ではAtopobium clusterでB群とBP群で高値、BP群で最も高値。
【結論】
大麦とL. plantarum 284株の同時摂取により腸内発酵の促進と腸内細菌叢の構成の変化が認められた。また体重、耐糖能、血清中の遊離脂肪酸、肝臓および糞中脂質においてシンバイオティクス効果も確認された。以上のことから大麦とL. plantarumの同時摂取は腸内環境を改善し、メタボリックシンドロームの予防や改善に有効である可能性が示唆された。
【研究機関】
大妻女子大学、エイ・エル・エイ乳酸菌研究所
大麦とLactobacillus plantarumの同時摂取がマウスのメタボリックシンドローム関連指標に及ぼす影響:シンバイオティクス効果の検討
2020年11月21~23日 日本食物繊維学会第25回学術集会, 口頭発表
2020年12月24日掲載