全粒穀物の血糖コントロール改善効果は
加工度が低いほど高い

【背景】
全粒穀物を豊富に含む食事は2型糖尿病や心疾患、大腸がんの発症率の低下に寄与することから、多くの食事ガイドラインや糖尿病の食事療法において全粒穀物の摂取が薦められている。しかし「全粒」の定義には、高度に加工されたものや再構築されたものも含まれる。細かく粉砕した全粒粉は加工度の高い食品への添加が可能で、エネルギー摂取量の増加と体重増加につながる可能性もある。細かく粉砕した穀物は食後血糖値の急上昇を招くという報告もある。そこで本研究では、加工度の異なる全粒穀物の摂取が糖尿病患者の血糖コントロールに与える影響を調べた。

【方法】
対象は31人の2型糖尿病患者(63歳、BMI32.4、HbA1c7.5、いずれも中央値)。最低限の加工をした全粒穀物(粒のままのオーツ麦、玄米、粗挽きの小麦と砕いた小麦の粒で作ったパン、以下「低加工度全粒食」)を摂取する2週間と加工度の高い全粒穀物(インスタントのオーツ麦、玄米パスタ、細かく挽いた全粒小麦で作ったパン、以下「高加工度全粒食」)を摂取する2週間における血糖変動を、CGM(持続血糖測定器)で測定するランダム化クロスオーバー試験を行った。ウォッシュアウト期間は2週間。

対象者は介入前4日間の食事日記から日常の穀物摂取量を割り出し、相当量を試験食に置き換えるように指示された。それ以外の食事や生活様式についての指示はなかった。試験食の栄養成分と含まれる全粒穀物の粒子サイズの内訳は表の通り。両試験食の主要な栄養成分と食物繊維の量は一致しており、アメリカ穀物化学者協会(AACC)の全粒穀物の基準を満たしている。

3食それぞれ3時間後までのCGMのデータを用いて血糖上昇曲線下面積(iAUC)を算出した。解析には2つの介入試験を遂行した28人のデータを用いた。

試験食の栄養成分と全粒穀物の粒子サイズ

【結果】
両方の介入期間とも、介入前に比べて脂肪の摂取量が減る替わりに、炭水化物、でんぷん、食物繊維の摂取量が増加した。2つの介入期間におけるエネルギー摂取量、主要な栄養成分と食物繊維の摂取量には差がなかった。いずれの介入期間も1日5.5サービングの試験食を摂取しており、朝食での摂取が最も多く、低加工度全粒食で2.3サービング、高加工度全粒食で2.2サービングだった。

朝食後のiAUCは高加工度全粒食の期間に比し、低加工度全粒食の期間で9%低かった。3食すべでの食事の平均では同6%低かった。低加工度全粒食では体重が減少したが高加工度全粒食では体重が増加し、その差は0.81㎏だった。

【考察と結論】
高加工度全粒食の期間に比し、低加工度全粒食は血糖値を改善した。2つの試験食の違いは全粒の構造や粒子サイズのみであり、介入期間におけるエネルギー摂取量には差はなかったが、体重の変化に違いがみられた。

加工度によって全粒の粒子サイズに差異が生じたため、でんぷんの消化率が変わったと考えられる。加工度の低い全粒穀物は小腸を通過し大腸での発酵によって短鎖脂肪酸となり、血糖値に影響することなく吸収される。一方、加工度が高い全粒穀物の粒子は小さく、水や消化酵素がでんぷんにアクセスしやすくなるため糖の吸収率が高くなる。また全粒を粉にすることが、でんぷんとたんぱく質の相互作用に影響を及ぼし、消化率が変わる可能性もある。

糖尿病管理のためガイドラインでは、穀物の構造や粒子サイズに関係なく全粒穀物の食品を推奨しているが、加工度が高くなると全粒穀物がもたらす健康上の有益性が薄れる可能性がある。

【研究機関】
オタゴ大学(ニュージーランド)、カロリンスカ研究所(スウェーデン)、リデット研究所(ニュージーランド)、リンカーン大学(ニュージーランド)

【大麦ラボ代表:青江誠一郎のコメント】

「加工度の違い」という言葉から誤解してしまいがちな論文だが、血糖応答を考えた場合、全粒穀物はできるだけ粒の状態で、粉に挽く場合は粗挽きが良いという内容である。本文にもあるが、胚乳部(でんぷんに富む部位)が加工(粉砕)され露出すると消化されやすくなる影響が考えられる。しかしこれは、外皮や糠に食物繊維が多い小麦、玄米、オーツ麦などの穀物に限られる。大麦のように胚乳部に食物繊維を多く含む場合は、微粉化しても血糖応答に与える影響はそれほど変化しないことをヒト試験で確認済みである。

Whole-Grain Processing and Glycemic Control in Type 2 Diabetes: A Randomized Crossover Trial
Diabetes Care dc200263, 2020

2020年6月25日掲載