【背景】
高齢になると食事の量も水分の摂取量も減り、活動量も低下するため便秘の悩みも増え、QOL(生活の質)の低下を招くと考えられる。著者らはかつて、老人保健施設入所の高齢者の食物繊維摂取量を増やす目的で押麦を配合した麦ごはんの提供を試みたが、「においが気になる」「もちもち感がない」などの理由から食欲低下の訴えがあった。きのこ類や野菜の量を増やす試験においても、咀嚼の問題などから食べ残しが増え、摂取エネルギー量が不十分になってしまうという結果に。そこで、β-グルカンの含有量が多く、もちもちとした食感の大麦の品種「キラリモチ」を用いた麦ごはんの継続摂取の受容性と便秘解消効果について調べることにした。
【試験方法】
対象は老人保健施設の入所者34人(男性7人、女性27人、年齢中央値88.9歳)。麦ごはんの経口摂取が可能で、排便介助が必要なため介護スタッフによって排便状況が確認できるという条件を満たす人たち。最初の1カ月は主食として白米ご飯か白米の粥を提供し(ベースライン)、続く2週間は白米9対キラリモチ1、次の2週間は同8対2、その後4カ月間は同7対3の麦ごはんか麦ごはんの粥を、1日3食の主食として提供した。キラリモチは米粒状に加工した米粒麦を使用した。
【結果】
最後まで試験に参加できた28人を解析対象とした(ただし28人中2人は最終月に施設から退所)。ベースラインで1週間の排便回数が3回未満の14人(便秘群)と3回以上(非便秘群)の14人に分けて解析を行った。便秘群では麦ごはんか麦ごはんの粥を摂取した5カ月間において、ベースラインに比し排便のあった日数も排便頻度も増え、便秘薬の使用が減った。非便秘群では有意な変化はなかった。
【考察と結論】
キラリモチを用いた麦ごはんの継続摂取は、便秘群の便通を改善する一方、非便群の便通には影響を及ぼさなかった。便秘群に比べて非便秘群には、ADL(日常生活動作)や摂食能の低い対象者が有意に多かったにもかかわらず、今回のような食事介入時に懸念される頻便や下痢はなかった。便秘の有無で主食の内容を変えることなく食事を提供できるというのは、食事を準備する介護スタッフの作業軽減にも役立つ。
今回のような6カ月に及ぶ長期の試験が遂行できた理由として2つの点に注目したい。1つ目は食事の準備の負担を増やすことなく被験者の食物繊維摂取量が増やせたということ。2つ目はキラリモチの米粒麦が被験者に受容されたということである。
【研究機関】
美作市立作東老人保健施設、甲南女子大学、西日本農業研究センター、美作大学
Effect of waxy barley, Kirarimochi, consumption on bowel movements of late-stage elderly residents at Roken nursing home.
J Physiol Anthropol 36, 17, 2017