高β-グルカン大麦で肥満マウスの高血圧抑制
短鎖脂肪酸を介した調節作用の可能性

【背景】
大麦の摂取による抗メタボリックシンドローム作用について、これまでの報告のほとんどが脂質異常や高血糖の抑制に関するものであり、高血圧の抑制に関する報告は少ない。本研究では大麦による高血圧の抑制作用の確認とメカニズムの解明を主目的とした。

【方法】
4週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)を1週間予備飼育し、30匹を1群10匹のコントロール群(CO群)、β-グルカンを5.6%含む大麦品種「ファイバースノウ」入りの飼料を与えるFS群、同8.0%含む「ホワイトファイバー」入りの飼料を与えるWF群の3群に分け、高脂肪食(脂肪エネルギー比50%)を86日間自由摂取させ、肥満に伴う高血圧を誘発した。試験飼料はAIN-93G組成の飼料を基本とし、総食物繊維量が5%となるようにCO群はセルロースで、他の2群は各大麦で調整した。

飼育11週目にテイルカフ法で血圧を測定、12週目に解剖して血清の採取、臓器重量の測定を行い、ELISA法で血清中の血圧マーカー、リアルタイムPCR法で肝臓や脂肪組織の血圧マーカーについて分析した。盲腸に含まれる短鎖脂肪酸はガスクロマトグラフ質量分析にて定量を行った。

【結果】
終体重、体重増加量、飼料効率は各群で有意差なし。盲腸重量はCO群に比し両大麦群で有意に増加しており盲腸発酵が示唆された。盲腸内容物の酢酸、プロピオン酸、コハク酸、総短鎖脂肪酸はCO群に比しFS群とWF群で有意に多かった。CO群に比しWF群は後腹膜壁脂肪と腸間膜脂肪が有意に少なかった。血圧は収縮期、拡張期、平均血圧のいずれもCO群に比しWF群で有意に低値、FS群は収縮期血圧が低値傾向を示したことから、大麦の摂取による高血圧の抑制作用が確認できた。

血圧上昇マーカーとなる血清中のACE活性、アンジオテンシンⅡ濃度は各群で有意差がなかった。交感神経の活性化による昇圧作用が考えられるレプチン濃度はCO群に比しWF群で有意に低値だったが、各血圧値との相関はみられなかった。

アンジオテンシノーゲンのmRNA発現量は肝臓ではFS群で、脂肪細胞ではWF群でCO群に比し有意に高値を示したが、アンジオテンシンⅡの受容体であるAT1Rの両組織でのmRNA発現量に有意差はなかった。またいずれも各血圧値との相関はみられなかった。

全データを用いてすべての表現型指標と血圧との相関性をみたところ、有意な負の相関があったのは盲腸重量および一部の短鎖脂肪酸量のみだった。収縮期血圧はプロピオン酸で有意な負の相関が、酢酸、コハク酸、総短鎖脂肪酸で負の相関傾向があった。しかし、血圧調節への関与が過去に報告されている短鎖脂肪酸の受容体、GPR41の脂肪細胞でのmRNA発現量は各群で有意差がなく、また一部の短鎖脂肪酸の受容体(GPCR)を介して作用する血管収縮因子、エンドセリンの血清中の濃度も各群で有意差がなく、各血圧値との相関もみられなかった。

【考察と結論】
高脂肪食を与えた肥満モデルマウスにおける大麦の高血圧抑制作用を確認した。β-グルカンが多いほどその効果は顕著だった。しかし大麦の摂取による各種血圧マーカーの変動はみられなかった。盲腸重量や盲腸内の短鎖脂肪酸量と血圧に負の相関があったことから、短鎖脂肪酸を介する調節作用の寄与が考えられるが、今回の検討ではその機序を明らかにすることはできなかった。

【研究機関】
大妻女子大学

大麦β-グルカンが食餌性肥満マウスの血圧調節に及ぼす影響
2019年11月3日 日本食物繊維学会第24回学術集会, 口頭発表

2019年11月25日掲載