バーリーマックスの食物繊維類は大腸の広域で発酵
腸内細菌叢の改善に寄与

【背景】
大麦の1品種である「BARLEYmax(バーリーマックス)、以下BM」は発酵性の食物繊維類、フルクタン、β-グルカン、レジスタントスターチなどを含む。発酵速度はフルクタンが最も早く、レジスタントスターチが最も遅い。BMに含まれるこれらの食物繊維類が腸内で段階的に発酵すれば、盲腸から遠位結腸までの広範囲において短鎖脂肪酸が産生されると考えられる。本研究ではBMの発酵特性を、β-グルカンが豊富な大麦品種の「BG012、以下BG」との比較において検討した。

【方法】
4週齢のSprague-Dawleyラットを7日間順化させ、AIN-93G組成の飼料を基本とするセルロース5%の餌を与える群(コントロール群、以下CO群)、食物繊維量が5%となるようにBMあるいはBGを加えた餌を与える群(それぞれ以下BM群、BG群)に分け(各8匹)、4週間自由摂取させた。BM群とBG群の餌に含まれるタンパク質と脂質の量はカゼインと大豆油でCO群と同じになるように調整した。摂餌量や体重は毎日測定、食餌効率は摂餌量あたりの体重増加の比で計算した。

バーリーマックスとBG012に含まれる食物繊維類の量
研究開始から26~27日目に新鮮糞を採取。解剖時に盲腸、近位結腸、遠位結腸の消化物を採取し、含まれる短鎖脂肪酸はガスクロマトグラフ質量分析にて定量を行った。盲腸と遠位結腸の消化物に含まれる腸内細菌叢解析は16S rRNA解析にて行った。

【結果】
終体重、体重増加、食餌効率は3群間で有意差はなかったが、BM群の摂餌量はCO群よりも有意に少なかった。盲腸消化物の重量はCO群とBG群に比しBM群で有意に高かった。肝臓重量は3群間で有意差はなかった。

盲腸消化物における酢酸、n-酪酸は、CO群に比しBM群とBG群で、総短鎖脂肪酸量はCO群に比しBM群で有意に多かった。近位結腸消化物中の各短鎖脂肪酸量およびその総量は、どの群においても盲腸消化物や遠位結腸消化物に含まれる量よりも少なく、3群間の有意差もなかった。遠位結腸消化物では酢酸量と総短鎖脂肪酸量がCO群に比しBM群のみで有意に多く、BG群と他の2群の間には有意差がなかった。

盲腸消化物および遠位結腸消化物における細菌門の存在比を比較した。どちらにおいてもBacteroidetesはCO群に比しBM群が有意に高く、BG群は高い傾向が見られた。一方、FirmicutesはCO群に比しBM群とBG群で有意に低かった。Proteobacteriaは盲腸消化物ではBG群よりもBM群で有意に高く、遠位結腸消化物ではCO群に比しBM群とBG群で有意に高かった。

属レベルでは盲腸消化物および遠位結腸消化物でBifidobacteriumSutterellaがCO群に比しBM群とBG群で有意に高く、盲腸消化物ではRuminococcusがCO群に比しBG群で有意に低く、遠位結腸消化物ではCO群に比しBM群とBG群で有意に低かった。Parabacteroidesは盲腸消化物でCO群に比しBM群が有意に高かった。Oscillospiraは遠位結腸消化物でCO群に比しBM群が有意に高かった。Clostridiumは盲腸消化物と遠位結腸消化物でCO群に比しBM群で有意に低かったが、CO群とBG群には有意差がなかった。

多様性指数は盲腸消化物ではOUTsおよびShannon指数でBG群に比しBM群で有意に低く遠位結腸消化物ではこれらに加えてChao1も有意に低かった。

【考察と結論】
β-グルカンが豊富なBGよりもBMのほうが遠位結腸における短鎖脂肪酸量を増やしたことから、BMに含まれる複数の発酵性の食物繊維類が遠位結腸にまで到達して発酵すると考えられる。近位結腸消化物に含まれる総短鎖脂肪酸量は調べた部位の中で最も少なく、含まれる各種短鎖脂肪酸量に3群間で差がなかった。近位結腸では速やかに短鎖脂肪酸が吸収されたと示唆される。フルクタンは急速に発酵し、レジスタントスターチはゆっくりと発酵するので、フルクタンとβ-グルカンは主に盲腸内、レジスタントスターチは主に遠位結腸で発酵すると考えられる。

腸内細菌叢の比較において、門レベルではCO群に比しBM群とBG群でBacteroidetesが多くFirmicutesが少なかったのはβ-グルカンの影響と考えられる。腸の粘膜表面で病原体や毒素に結合し、それらの機能を無効にする「分泌型IgA」はBacteroidetesの存在下で増えるという報告がある。※1したがってBMやBGによるBacteroidetesの増加は大腸疾患の予防への寄与が期待される。

盲腸と遠位結腸における腸内細菌の多様性はBM群よりもBG群で高かった。5g/日の低分子β-グルカンの投与は多様性(β-diversity)を変化させるが3g/日では変化がなかったというヒト試験の報告がある。※2、BMとBGに含まれるβ-グルカン量の違いの影響かもしれないが、さらなる検討が必要である。

腸の上皮細胞の炎症を抑制する作用が報告されているParabacteroidesの存在比率は、※3盲腸でCO群に比しBM群で有意に高かった。BMによるParabacteroidesの増加は腸の免疫機能を高めると期待できる。また、in vitro試験で免疫防御機能の促進が確認されているSutterella※4、盲腸および遠位結腸においてCO群に比しBM群とBG群で有意に高く、盲腸ではBG群よりもBM群で高かった。

BMもBGも盲腸の酢酸とn-酪酸、盲腸と遠位結腸のBifidobacteriumを増加させた。これはβ-グルカンの発酵によるものと考えられる。BMは盲腸の総短鎖脂肪酸量と遠位結腸の酢酸と総短鎖脂肪酸量も増やしたが、これはβ-グルカンに加えてフルクタンとレジスタントスターチが含まれることによるものと考えられる。

BMの食物繊維類は遠位結腸まで到達して短鎖脂肪酸量を増やし、盲腸から遠位結腸に至るまでの腸内細菌叢を改善する。その作用はβ-グルカンが豊富なBGよりも効果的だった。

※1  Mucosal Immunol, 4, 6, 603-11, 2011
※2  Front Microbiol, 7, 129, 2016
※3  Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol, 298, 6, G807-19, 2010
※4  Proc Natl Acad Sci U S A, 114, 40, 10719-24, 2017


【研究機関】
大妻女子大学、帝人

Effects of BARLEYmax and high-β-glucan barley line on short-chain fatty acids production and microbiota from the cecum to the distal colon in rats
PLoS One 14, 6, e0218118, 2019

2019年7月16日掲載