【背景】
大麦の摂取による食後高血糖の抑制作用は健常人で確認されているが、※12型糖尿病患者を対象に検討した報告は少ない。そこで、糖尿病治療薬として広く用いられるアカルボースまたはメトホルミンを服用する糖尿病患者と糖尿病治療薬を用いない糖尿病患者を対象に、大麦の継続摂取が食後血糖と血糖変動に与える影響を検討した。
【方法】
非ランダム化オープン試験。対象の糖尿病患者は食事・運動療法のみで治療薬を用いない未投与群、食事・運動療法に加えてアカルボースを服用するAca群、同メトホルミンを服用するMet群で各群10人。合計30人の年齢は61±12歳、HbA1cは7.1±0.4%、空腹時血糖値は139±12㎎/dLで群間差はないが、BMIは未投与群の23.7±2.4、Aca群の23.9±2.9に対し、Met群は28.5±2.7で有意に高かった。
試験開始前に白米(白米ごはん+カレー)を用いた食事負荷試験(0分、30分、60分、120分に採血して血糖測定)を行い、その後5日間は1日2回白米ごはん(合計432kcal、食物繊維0g)を、続く7~8日間は1日2回3割麦ごはん(合計454kcal、食物繊維7.2g)を摂取。試験食摂取期間中はCGM(持続血糖測定器)を用いて血糖値の測定を行った。試験終了時(13~14日目)に大麦(3割麦ごはん+カレー)を用いた食事負荷試験を行った。
【結果】
食事負荷試験における血糖値の経時変化は、未投与群とMet群で白米摂取後に比し大麦摂取後で有意に低値に抑えられたがAca群では顕著な差がみられなかった。血糖上昇曲線下面積(AUC)も未投与群とMet群では大麦摂取後に有意に低値を示し、Aca群では低値となる傾向がみられた。白米摂取後のAUCはAca群が他の2群に比し有意に低値だった。
CGMのデータは装着後数日間安定しないので、2~3日目(白米ごはん摂取期間)、8~9日目(3割麦ごはん摂取期間)の平均血糖値、血糖変動幅(MAGE)、変動係数(CV)を算出した。平均血糖値はいずれの群も3割麦ごはん摂取期間に低値となったがAca群では有意な差はなかった。MAGEとCVはいずれの群も3割麦ごはん摂取期間に低値となったがAca群とMet群では有意な差はなかった。
【考察と結論】
未投与群とMet群では、大麦の摂取は血糖コントロールに有用だったが、Aca群では有意な変化がみられなかった。アカルボースは糖の吸収を促すα-グルコシダーゼの作用を阻害することで消化・吸収を遅らせる。大麦の血糖上昇を抑える作用も、含まれるβ-グルカンの粘性による消化・吸収の遅延によるものと考えられる。両者の作用機序が類似しているため、Aca群では有意な変化がみられなかったと考えられる。
大麦の摂取により食後高血糖の改善のみならず、平均血糖値の低下も認められた。大麦の摂取は2型糖尿病患者の血糖コントロール改善の一助となる可能性が示唆された。
【フロアから】
大麦の食物繊維にもα-グルコシダーゼ阻害活性があるのか。
【演者の回答】
アカルボースによって十分な消化・吸収の遅延効果が得られていたため、大麦の食物繊維の粘性による追加効果が認められなかったと考える。
【研究機関】
那珂記念クリニック、はくばく、山梨大学
※1 Cell Metab 22, 6, 971-82, 2015
大麦がアカルボースまたはメトホルミン服用2型糖尿病患者の食後血糖および血糖変動指標に与える影響の検討
2019年5月24日 第62回日本糖尿病学会年次学術集会, デジタルポスター発表
2019年6月25日掲載