大麦は、全粒粉でも搗精粉でも機能は同等、肥満を抑制する

【背景】
著者らは先行研究において麦ごはんの内臓脂肪低減作用を確認しているが(麦ごはんに含まれるβ-グルカンの内臓脂肪低減作用を確認参照)、被験食と対照食に含まれる大麦の量が異なるため大麦に含まれるβ-グルカン以外の成分の含有量にも差異が生じた。そこで内臓脂肪低減作用がβ-グルカンによるものであることを確認するための動物試験を行った。

【方法】
4週齢のオスのノーマルマウス(C57BL/6J)を4群に分け(各群10匹)、以下を含む高脂肪の餌の自由摂取で12週間飼育した。各群の食物繊維の総量は、セルロースの添加により餌の5%でそろえた。
β-グルカン高含有の品種「ビューファイバー」の全粒粉:BF-W
β-グルカン高含有の品種「ビューファイバー」の60%搗精粉(注):BF-P
β-グルカンを含まない品種「四国裸84bgl」の全粒粉:BGL-W
β-グルカンを含まない品種「四国裸84bgl」の60%搗精粉:BGL-P
血糖負荷試験(OGTT)は11週目に6時間の絶食後に実施。解剖2日前の糞便を採取しシークエンサーを用いて腸内細菌叢を調べた。飼育期間終了時、17時間の絶食後に解剖し、脂肪組織や肝臓の組成や重量を解析、血液検査も行った。

【結果】
4群ともに摂食量や体重には群間差がなかった。2つのBF群は2つのBGL群に比べて、腸間膜の脂肪重量が有意に軽く、盲腸の重量が有意に重かった(グラフ)。血糖負荷試験では2つのBF群は2つのBGL群に比べて15分~120分後の血糖値、血糖曲線下面積、インスリン分泌量が有意に低かった。いずれも全粒粉群と搗精粉群で有意差がなかった。

血液検査において、全項目で全粒粉群と搗精粉群で有意差がなかった。LDL-コレステロール値と血糖値は2つのBF群で有意に低かった。HDL-コレステロール値、中性脂肪値、遊離脂肪酸、HbA1cはすべての群間で有意差がなかった。

肝臓における脂質の蓄積についても全粒粉群と搗精粉群で有意差はなく、中性脂肪量やコレステロールの蓄積量は、2つのBF群で有意に低かった。

腸内細菌叢の解析では、2つのBF群でクロストリジウム(Clostridium)系統の割合が有意に低く、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、プレボテラ(Prevotella)の各系統の割合が有意に高かった。

副睾丸脂肪における炎症系マーカーの発現を調べたところ、全粒粉群と搗精粉群で有意差はなく、2つのBF群でF4/80とTNF-αが有意に低かった。


腸間膜の脂肪はヒトの内臓脂肪にあたる。盲腸の重量は腸内発酵の目安となる。
【考察と結論】
β-グルカン高含有の大麦は、β-グルカンを含まない大麦に比べて、ノーマルマウスの内臓脂肪や総コレステロール値、肝臓への脂肪の蓄積、炎症系マーカーの発現を減らした。摂食量に差がなかったことから、これらはβ-グルカンの作用によるものと考えられる。β-グルカンによる食後の血糖応答の改善が肥満抑制の要因の1つになっているようだ。また、肥満に関連する各種のパラメーターは全粒粉でも搗精粉でも差異がないこともわかった。

2つのBF群の盲腸重量が有意に重く、腸内細菌叢の解析ではクロストリジウム系統の割合が低く、ビフィドバクテリウム系統の割合が高くなったのは、β-グルカンの腸内発酵により腸内細菌叢に変化が生じたためと考えられる。なお肥満者ではクロストリジウム系統のサブグループであるファーミキューテス(Firmicutes)門の菌が多く、ビフィドバクテリウム系統の菌が少ないことが最近の研究で示されている。

【研究機関】
大妻女子大学、農業・食品産業技術 総合研究機構、西日本農業研究センター

(注)全粒大麦の粒を40%削った残りを粉にしたもの。

Effects of β-glucan content and pearling of barley in diet-induced obese mice
Cereal chemistry 27 Sep 2017