【背景】
著者らは先行研究において、麦茶の苦み成分である環状ジペプチドの「シクロ(D-Phe-L-Pro)」が、血管内皮における一酸化窒素の放出を介した血管拡張作用を有することを動物試験で、また、麦茶を摂取すると冷水負荷後の手のひらの皮膚温の回復が有意に促されることを健康な女性を対象とするヒト試験で確認した。※1本研究では、シクロを含む麦茶の飲用が冷房をきかせた室内における皮膚温の調整に与える影響を検討するために、プラセボ対照ランダム化二重盲検試験を行った。
【方法】
試験飲料はシクロ258μgを含む麦茶250mL(3kcal)と食品着色料と食品添加物で外観と味を麦茶に似せたプラセボ飲料250mL。健康な成人男女18人を、先に麦茶を飲む群とプラセボ飲料(シクロ0μg、0kcal)を飲む群にランダムに分けたクロスオーバー方式で行った。
被験者は綿地のTシャツのような薄い衣服を着用し、室温28.0±0.5℃の部屋で2時間待機ののち、室温25.5±0.5℃、湿度52.5±7.5%の冷房のきいた部屋で、いすに座り30分間過ごした(室温への順化)。その後靴下を脱いでから麦茶あるいはプラセボ飲料を飲んだ。飲用直前時点を0分とし、100分後まで5分間隔で左足の甲の温度を測定した。皮膚温の測定には赤外線サーモグラフィーを用いた。
【結果】
全員が試験を遂行したが、データ不足などから6人を解析対象から除外し、12人のデータを解析した。皮膚温は飲用後35分時点以外のすべてにおいて麦茶を飲んだ場合のほうが有意に高かった。男性(n=4)と女性(n=8)に分けた解析でも、男性では飲用後10分、20分、35分、50分、55分、女性では飲用後10分、45分、50分、55分の皮膚温が麦茶を飲んだ場合で有意に高かった。
【考察と結論】
プラセボ飲料摂取後の皮膚温は実験開始後に低下したことから、試験を行った部屋の温度は適度に寒かったと考えられる。麦茶飲料摂取後はプラセボ飲料摂取後に比し皮膚温の低下が有意に抑えられた。麦茶の皮膚温度の低下を抑える作用はシクロによる血管拡張によるものと考えられる。
著者らの先行研究※1ではヒト試験の被験者がすべて女性だったが、本研究では男性でも皮膚温度の低下が抑えられるのを確認した。麦茶の摂取は、寒い状況下での皮膚温の低下を防ぐと結論づける。
※1 J Agric Food Chem 66, 5, 1251-7, 2018
【研究機関】
キリン
Roasted Barley Extract (Mugicha) Containing Cyclo(d-Phe-l-Pro) Prevents a Decrease in Skin Temperature in Cold Conditions: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Crossover Study
J Nutr Sci Vitaminol 65, 90–3, 2019
2019年4月23日掲載