小麦ふすま摂取で酪酸産生菌と短鎖脂肪酸が増加
バーリーマックスと同時摂取でBacteroidesの割合増

【背景】
発酵速度が異なる複数の食物繊維の摂取により腸内細菌叢や腸内で生じる代謝産物の種類や量がどのように変化するかというのは、近年注目を集めるトピックの1つ。先行のヒト介入試験では、小麦ふすま(WB)とレジスタントスターチの組み合わせがWB単独の摂取に比べ有益であることが示されている。※1そこで本研究ではアラビノキシランが豊富なWBと、フルクタンやレジスタントスターチ、β-グルカンが豊富な大麦の1品種である「BARLEYmax(バーリーマックス)、以下BM」それぞれの単独摂取および同時摂取が、ヒトの腸内環境に与える影響を調べることを目的とした。

【方法】
健康な成人(20~64歳)60人を対象とするランダム化二重盲検試験を実施。4群(各群15人)に分け、以下のシリアルバーのいずれかを主食の一部として1日2本、4週間摂取させた。
WBもBMも入っていない(WB-BM-群)
WB入り、BMなし(WB+BM-群)
WBなし、BM入り(WB-BM+群)
WBもBMも入っている(WB+BM+群)

シリアルバーは1本平均40.7gでエネルギー量はほぼ同じ、総食物繊維量もセルロースで調整してほぼ同じにした。カカオパウダーや黒糖を加えて盲検化した。



試験前後に食事調査と身体計測、血圧測定、各種血液検査、糞便の採取を行い、糞便に含まれる腸内細菌の16S rRNA解析や短鎖脂肪酸量、腐敗産物(インドール、フェノール、アンモニアなど)の量を調べた。

【結果】
試験前の各種測定結果は群間で有意差はなく、試験食の摂取による胃腸障害などの有害事象もなかった。また体重や体脂肪率、血圧、各種血液検査項目は試験前後で有意な変化はなかった。

腸内細菌叢は試験前後でいくつかの有意な変化がみられた。まずWB+BM+群でのみ門レベルではBacteroidetes門、属レベルではBacteroides属の割合が増えた。その他の門、属では有意な変化がなかった。

WBを含む群かどうかで比較すると、非WB群(WB-BM-群およびWB-BM+群)に比しWB群(WB+BM-群およびWB+BM+群)では、試験後にAnaerostipes属の菌を除くほとんどの酪酸産生菌(Ruminococcus属、Faecalibacterium属、Coprococcus属、Roseburia属、Ruminiclostridium属の各属に含まれる菌のいくつか)の割合が有意に増えた。次にBMを含む群かどうかで比較すると、酪酸産生菌のうちClostridium属の割合は非BM群(WB-BM-群およびWB+BM-群)に比しBM群(WB-BM+群およびWB+BM+群)で有意に増えた。

試験後の短鎖脂肪酸の総量と酢酸量、n-酪酸量は非WB群に比しWB群で有意に多かった。試験前後の比較では酢酸量と短鎖脂肪酸の総量が非WB群に比しWB群で有意に増え、同様の傾向はプロピオン酸とn-酪酸でもみられた。腸内細菌に占める酪酸産生菌の割合が高いほど酪酸産生量が増えるという直線的な関係がみられた。

試験後の糞便中のp-クレゾール量ならびにアンモニア以外の腐敗産物量は非WB群に比しWB群で有意に減った。

【考察と結論】
WBはAnaerostipes属以外の酪酸産生菌を増やし、糞便に含まれる酪酸量を多くした。小麦ふすまに豊富に含まれるアラビノキシランにはフェルラ酸が結合しているが、腸内細菌の作用によってフェルラ酸が遊離するとアラビノキシランは水溶化して分解する。※2分解物であるアラビノキシランオリゴ糖などが増えるに伴い、酪酸が増えフェノールやp-クレゾールの尿中排泄が減るという報告がある。※3この報告では1日量に2.14gのアラビノキシランオリゴ糖を含むパンの摂取により、糞便中の酪酸および短鎖脂肪酸の総量が増えるともある。本研究のWB群におけるWB由来のアラビノキシラン量は1日2.1gである。WBでアラビノキシランを1日に2.1gとると、酪酸産生菌が増え、酪酸産生量を増やすのに効果的と考えられる。

WBをとるかBMをとるかによって糞便中の酪酸量が異なるのは、含まれる食物繊維源が違うため、腸内の移動時間や発酵スピードが異なる影響が考えられる。BMのフルクタンやβ-グルカンは主に大腸の上部で発酵し、産生した短鎖脂肪酸もそこで吸収された可能性があるので、糞便中の短鎖脂肪酸量から腸内で産生した短鎖脂肪酸の量を評価するのは難しい。

WBとBMの同時摂取によりBacteroidetes門、Bacteroides属の割合が増えた。腸管免疫を担う免疫グロブリンA(IgA)はBacteroidetes門の存在下でより効果的に働くという報告もあることから、※4WBとBMの同時摂取によるこの菌叢変化は腸疾患の予防に役立つと期待できる。


※1 Am J Clin Nutr 79, 6, 1020–8, 2004
※2 Environ Microbiol 18, 7, 2214-25, 2016
※3 Clin Gastroenterol 40, 3, 235–43, 2006
※4 Mucosal Immunol 4, 6, 603-11, 2011


【研究機関】
大妻女子大学、CPCC

Effect of Wheat Bran on Fecal Butyrate-Producing Bacteria and Wheat Bran Combined with Barley on Bacteroides Abundance in Japanese Healthy Adults
Nutrients 10, 12, pii: E1980, 2018