大麦のフェルラ酸は大腸でフェニル乳酸などに変化
加工形態によって代謝産物量に差異あり

【背景】
β-グルカンやフェノール化合物(以下、PC)など大麦に豊富に含まれる生理活性物質が生体に与える影響を知るには、腸管内での生理活性や腸内細菌によってどのように代謝されるかについて明らかにする必要がある。本研究では①大麦粉を用いた加工食品中のβ-グルカンとPC(結合型と遊離型)の量、②消化の過程におけるβ-グルカンやPCの残存量、③腸内発酵による代謝産物量の経時的変化を調べた。

【方法】
<消化を模した試験>
試験に用いたのはもち性の大麦粉で作ったクッキーとクラッカー、生パスタ。それぞれ乾燥重量の29%、27%、37%が大麦粉で、形状の維持のために加えた小麦粉はそれぞれ21%、66%、54%。それぞれ湿重量5g分を、37℃の環境でだ液で5分、胃液で1時間、小腸の消化液で2時間順次さらされるという消化を模した状況を経たサンプルにして遠心分離で上清(消化によって生体が利用できる状態になった部分)と残さ(生体が利用できない部分)に分けた。

<大腸での発酵を模した培養>
健康な3人の成人の糞便から作成した糞便5%含有液10mLを上記の残さサンプルそれぞれ0.1gと混ぜたものを、37℃の嫌気的環境で2、6、24、48時間培養した。

すべてのサンプルは凍結乾燥して-80℃で保存した。β-グルカン量、PC量、代謝産物量の測定方法は割愛する。

【結果と考察】
作成したクッキー、クラッカー、生パスタに含まれるβ-グルカン量はそれぞれ100gあたり1.77g、1.90g、2.67gで用いた大麦粉の量から考えて妥当な量であり、加工の過程でβ-グルカンは失われなかったことになる。「消化を模した試験」後のサンプルは上清よりも残さにβ-グルカンが多く含まれた。この結果はβ-グルカンが一緒に食べた食品の消化吸収を阻害するという機能性に一致する。

「大腸での発酵を模した培養」後は、クッキー、クラッカー、生パスタのいずれのサンプルでも6時間後までβ-グルカン量が多く(100gあたり2~6g程度、以下すべて100gあたり)検出されたが、48時間後には0.3g未満に減った。β-グルカン量の減少に伴い短鎖脂肪酸量が増え、48時間後には4g前後となった。多くは酢酸でプロピオン酸が続き、酪酸はほとんど検出されなかった。先行研究では(プロピオン酸+酪酸)/酢酸がβ-グルカンの分子量の大きさを反映するとある。※1プロピオン酸量は生パスタ>クッキー>クラッカーで、加熱時間が短いものほど多かったことから加熱時間の影響が考えられる。

加工前の大麦粉に含まれる結合型PCのうち95%はフェルラ酸だった。遊離型PCの主体はフラバン-3-オール類で、そのうち35%はカテキンを主体とする単量体、60%はプロシアニジンB3やプロデルフィニジンB3を主体とする二量体だった。遊離型PCはクラッカーとクッキーに比し、生パスタで含有量が少なかったことから、ゆでる過程で失われたと考えられる。一方、結合型PCは焼いてもゆでても失われにくいことも確認した。

消化を模した試験後の上清に含まれる遊離型PCの残存率はクッキー、クラッカー、生パスタそれぞれ8.2%、5.1%、2.6%で、9割以上減少した。残さに含まれる結合型PCの主体はフェルラ酸だった。結合型PCは消化によってそれぞれ87.6%、70.0%、61.4%減少した。

大腸での発酵を模した培養後に検出されたPCの代謝物のほとんどは、フェルラ酸を主体とする結合型PCの加水分解物と考えられ、検出された7種類の代謝物のうちジヒドロフェルラ酸と4’-ヒドロキシフェニル乳酸の2つが多くを占めた。フェルラ酸は発酵2~6時間をピークに減少した。ジヒドロフェルラ酸はクッキー、クラッカー、生パスタのいずれでも48時間の間に漸増した。クッキーとクラッカーに比し生パスタではこの2つの代謝物の量が多かった(グラフ)。これは加工の過程における、細胞構造の破壊の影響が考えられる。

その他、生パスタではジヒドロカフェイン酸が、クラッカーでは3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸が増えるなど、加工形態によって代謝産物の生成量が異なることが確認された。




【結論】
大麦の加工食品に含まれる生理活性物質であるβ-グルカンやPCの量は加工によって大きく減ることはなかった。消化吸収の過程で、β-グルカンや遊離型PCはすべてが利用されるわけではなく残さ中に保持されて大腸へと届き、大腸に保護的に働く短鎖脂肪酸やPCの代謝物の産生に寄与すると考えられる。

※1 Br J Nutr 104, 3, 364-73, 2010

【研究機関】
ブエノスアイレス大学(アルゼンチン)、CONICET:国立科学技術研究審議会(アルゼンチン)、リェイダ大学(スペイン)

Beta-glucan and phenolic compounds: Their concentration and behavior during in-vitro gastrointestinal digestion and colonic fermentation of different barley-based food products
J Agric Food Chem 66, 34, 8966-75, 2018