大麦は腸内の有用菌を増やし、大腸粘液層が薄くなるのを防いで炎症を抑制、「バーリーマックス」で顕著な効果

【背景】
大麦の1品種である「BARLEYmax(バーリーマックス)」は、オーストラリア連邦科学産業研究機構が開発した非遺伝子組み換え大麦で、β-グルカンやアラビノキシランに加え、フルクタン、レジスタントスターチなど多様な食物繊維類を含み、その総量は一般に流通する大麦の品種の2倍程度になる。高脂肪かつ砂糖などの単純糖質の多い欧米型の食事によるマウスの腸内環境の悪化がバーリーマックスの同時摂取によって防げるかどうか、ほかの品種の大麦との比較も含め検討した。

【方法】
7週齢の雄のノーマルマウス(C57BL/6J)を5群に分け(1群8匹)、それぞれに以下の餌を4週間自由摂取させた。
・Cont:高脂肪ではない一般的な餌
・WD:欧米型の食事(ウェスタンダイエット食)を模した餌。脂肪エネルギー比は42%で餌の5%がセルロース
・BM-WD:WDのセルロースの代わりに、餌の5%がバーリーマックス(総食物繊維量32.6%)の食物繊維となるように調整
・HM-WD:BM-WDのバーリーマックスと同量のうるち性の大麦(総食物繊維量13.8%)を添加、餌の5%が食物繊維になるようにセルロースで補正
・GB-WD:BM-WDのバーリーマックスと同量のもち性の大麦(総食物繊維量16.7%)を添加、餌の5%が食物繊維になるようにセルロースで補正

飼育期間終了後、体重や炎症関連マーカー(TNF-α、IL-6、FOXP3)のmRNAの発現、大腸の上皮細胞を覆う粘液層(ムチン層)の厚さ、免疫力の指標となる血漿中や糞便中の免疫グロブリンA(IgA)の量、糞便中の菌叢など検討した。

【結果】
体重はCont群に比しWDで育てた4群とも有意に増加した。WDで育てた4群間では有意差はなかった。大腸組織からRNAを採取して炎症関連マーカーのmRNAの発現を定量PCRで解析したところ、大麦入りの餌で育てた3群は有意にTNF-αの発現が抑えられた。IL-6やFOXP3の発現についても同様の傾向はみられたが有意差はなかった。

WDの継続摂取によって腸内細菌のバランスが悪くなると、大腸のムチン層が薄くなってバリア機能が低下することが知られる。※1バリア機能の低下(腸管透過性)の指標となる血中LBP(リポ多糖結合たんぱく)量は、Cont群に比しWD群で増加傾向がみられたが、大麦入りの餌で育てた3群ではCont群と同等の値を示した。

大腸のムチン層はCont群に比しWD群で有意に薄くなったが、BM-WD群ではCont群と同程度の厚みを維持しており、HM-WD群、GB-WD群でも薄くなるのを防ぐ傾向がみられた。血漿中と凍結乾燥24時間の糞便中のIgA量をELISA法で調べたところ、Cont群に比しWD群ではどちらも有意に少なくなっていたが、BM-WD群はCont群ほどではないもののWD群に比し有意に多かった。HM-WD群、GB-WD群でもWD群に比し多い傾向がみられた。

腸内細菌叢の16SrRNA解析の結果、Cont群に比しWD群ではLactobacillusが少ないが、BM-WD群はCont群以上に多かった。同じくCont群に比しWD群で少ないAkkermansiaは大麦入りの餌で育てた3群ではCont群並みに高かった。Cont群やWD群では少なかったBifidobacteriumは大麦入りの餌で育てた3群では高かった。

【考察と結論】
WDは体重を増やし、腸内細菌のバランスを崩すことで大腸のムチン層を薄くして腸管透過性が高まり炎症を引き起こすが、大麦の摂取によりLactobacillusAkkermansiaBifidobacteriumなどの腸内の有用菌が増え、ムチン層が薄くなるのを抑えることで大腸の炎症を防ぐバリア機能が高まると考えられる。特にバーリーマックスではムチン層の厚みやIgA量の維持への寄与が大きかった。

【研究機関】
帝人

※1 Gut 63, 1, 116-24, 2014

機能性大麦BARLEYmaxのウェスタンダイエット摂餌マウスに対する腸内環境への影響