【背景】
食用とする大麦は主に胚乳の部分だが、外皮を含む大麦糠(ぬか)にもβ-グルカンなどの機能性成分が含まれる。大麦糠は食味が悪いため家畜の飼料とされることが多かったが、近年では胚乳に近い部分を抽出できるようになった。本研究に用いた大麦糠(高β-グルカン大麦糠)は灰分量が少ないため苦みや渋みが少ない。この高β-グルカン大麦糠を配合したクッキーの摂取が血糖上昇やインスリン分泌に与える影響を検討するとともに、ヒトの嗜好に適するかどうかについて評価した。
【方法と結果】
高β-グルカン大麦糠は長野県産の大粒大麦「はるか二条」を歩留まりが75~85%になるように削ったとき出る糠。食物繊維量は100gあたり17.4g、そのうちβ-グルカンは3.4gで、一般的な大麦糠に比べて約2倍のβ-グルカンを含む。対照のクッキー(以下、小麦クッキー)は小麦粉(薄力粉)、砂糖、無塩バター、水を用いて、高β-グルカン大麦糠を配合したクッキー(以下、大麦糠クッキー)は小麦クッキーの薄力粉をすべて高β-グルカン大麦糠に置き換えて作成した。それぞれのクッキーの栄養成分組成は表の通り。
<試験1>血糖値とインスリン濃度
試験の対象は健康な成人女性9人(平均21.1歳、平均BMI20.8)。小麦クッキー(5本、100g)を食べる直前と食後30分、60分、90分、120分、180分に採血し、血糖値と血漿インスリン濃度を測定した。1週間以上の間(ウォッシュアウト期間)をあけ、大麦糠クッキー(5本、100g)で同様の検討を行った。
どちらのクッキーを食べた場合も血糖値は食後30分でピーク(小麦クッキーで125.0±10.6㎎/dL、大麦糠クッキーで107.0±15.2mg/dL)となり、食後180分で空腹時レベルに下がった。食後30分から180分までの血糖値は小麦クッキーを食べた場合に比べて大麦糠クッキーを食べた場合のほうが低く、摂取後180分までの血糖上昇曲線下面積は大麦糠クッキーを食べた場合で有意に低かった。インスリン分泌も血糖値と同様の経時的変化を示し、インスリン上昇曲線下面積も大麦糠クッキーを食べた場合で有意に低かった。
<試験2>嗜好性
対象は試験1と同じ。閉眼状態で上述のクッキー2種類を1口大(約7g)に切り分けたものを1種類ずつ摂取、嗜好性の評価は1種類ごとに行った。クッキーを食べる順番はランダムに決めた。嗜好性の評価項目は味、香り、食感(歯ざわり、舌ざわり)、歯もろさ(サクサク感)、見た目の5つ。見た目はクッキー摂取後に見せて評価させた。評価は-3(非常に悪い)~+3(非常に良い)の7点法で、2種類のクッキーの相対的評価ではなく各クッキーに対する主観的評価をするように指示した。
嗜好性評価の結果は以下の図の通り。5項目とも小麦クッキーと大麦糠クッキーで有意差はなかった。
【考察と結論】
大麦糠クッキーの摂取は血糖上昇とインスリン分泌を抑制した。1食分の大麦糠クッキーに含まれる食物繊維量は8.7g、そのうちβ-グルカンは1.7gで、これらによる消化吸収の遅延作用の影響と考えられるが、利用可能な糖質50gに対し血糖上昇の抑制効果が得られるβ-グルカン量は6.7gという報告もあり、※1これは本研究に用いた量の約4倍である。大麦糠に含まれるβ-グルカン以外の食物繊維やフィトケミカル、ミネラル、ビタミンの影響も考えられる。
大麦糠にはフィトケミカルの一種、プロシアニジンやプロデルフィニジンが含まれるという報告があり、※2※3プロシアニジンには糖の消化吸収を阻害するα-グルコシダーゼ阻害作用があるという報告もある。※4大麦糠は同様の機序によって血糖上昇やインスリン分泌を抑えた可能性もある。
大麦糠クッキーは見た目の評価が高く、味の評価も小麦クッキーと有意差はなかった。ただし食感や歯もろさでは小麦クッキーよりも評価はやや低かった。大麦糠クッキーは口腔内の唾液を奪われやすいが腹持ちが良いという意見もあり、機能性おやつとしての有用性が確認できた。
【研究機関】
名古屋女子大学、十文字学園女子大学
※1 Eur J Clin Nut 67, 4, 310-7, 2013
※2 Int J Food Prop 10, 231–44, 2007
※3 Japanese Scc Food Sci Technol 46, 116-10, 1996
※4 Diabetes Res Clin Pract 77, 1, 41-6, 2007
高β-グルカン大麦糠を配合したクッキーの摂取がヒトの血糖上昇ならびにインスリン分泌に及ぼす影響
ルミナコイド研究 22, 1, 21-28, 2018