Prevotellaの有無にかかわらず大麦は耐糖能改善に寄与
Prevotella/Bacteroides比でレスポンダーかどうかは判断できない

【背景】
我々は先行研究において、大麦のプレバイオティクス効果により耐糖能が改善する被験者(レスポンダー)と変化がみられない被験者(ノンレスポンダー)がいること、レスポンダーでは大麦の摂取により腸内でPrevotella 属の菌が増え、Prevotella/Bacteroides比(以下 P/B比)が高くなることを確認した。※1またレスポンダーでは、ベースラインにおけるP/B比が高い傾向を示していた。そこで本研究ではベースラインにおけるP/B比によってレスポンダーとノンレスポンダーの層別が可能かどうか検討した。

【方法】
対象は99人の健康な男女で、平均年齢64.1歳、平均BMI 24.3、随時血糖値の平均が99㎎/dL。ベースラインの糞便サンプルの16S rRNA解析を行い、P/B比1.0超を高Prevotella群(HP群)、ほぼ0を低Prevotella群(LP群)とした。Prevotella属の菌とBacteroides属の菌の両方が多い被験者もみられ、これをHPB群とした。さらに被験者を空腹時血糖が110㎎/dL未満の糖尿病診断基準における正常型に絞り、BMIが30を超える人を除外したところ、各群の人数は、HP群が12人、LP群が13人、HPB群が8人となった。

大麦パン(大麦85%小麦15%)あるいは小麦パン(小麦100%)を連続3日間、2週間のウォッシュアウト期間をおいて摂取する(以後それぞれ大麦負荷後、小麦負荷後と呼ぶ)クロスオーバー試験を実施。試験食に含まれる利用可能な炭水化物量は1日100gでそろえた。1日量に含まれるレジスタントスターチ量と総食物繊維量(レジスタントスターチは含まない)はそれぞれ大麦パンが14.7g、36.4g、小麦パンが2.7g、10.7g。

被験者は試験1日目と2日目は1日量を3回に分けて自由に摂取、3日目は1日量の半分を朝食と昼食の間に、残り半分を午後9時に摂取。翌朝まで絶食し朝食として小麦パン(利用可能な炭水化物量は50g)を食べ、次に挙げる測定項目の経時推移をみる単回摂取試験を実施した。測定したのは朝食摂取前と摂取後180分間の血糖値、インスリン値、各種消化管ホルモン値、呼気中水素濃度、炎症性サイトカインのIL-6、空腹感など。炎症マーカーのCRPは摂取前のみ測定した。

【結果】
HP群、LP群、HPB群のいずれの群においても大麦負荷後は小麦負荷後に比べて朝食摂取後の血糖上昇曲線下面積が有意に低く、HP群、LP群ではインスリン上昇曲線下面積も有意に低かった。大麦負荷後でも小麦負荷後でも、HP群はLP群に比しインスリン上昇曲線下面積が有意に低かった。


ほかの測定項目とその結果は以下の通り。
・朝食摂取後、HPB群のGLP-1とGLP-2の曲線下面積は小麦負荷後より大麦負荷後に高く、HP群のPYY曲線下面積は小麦負荷後より大麦負荷後で高い傾向あり。
・朝食摂取前の呼気中水素濃度はHP群に比しLP群で高い。どの群でも朝食摂取後の呼気中水素濃度は、小麦負荷後よりも大麦負荷後で高い。
・HP群はLP群に比しIL-6が有意に低く、CRPは低い傾向あり。どの群でも小麦負荷後と大麦負荷後で差はない。
・LP群では小麦負荷後よりも大麦負荷後で朝食摂取前の空腹感が28%低く、満腹感が92%高い。朝食摂取後の空腹感や食への切望感は、LP群に比しHP群とHPB群では小麦負荷後も大麦負荷後も低い。

【考察と結論】
ベースラインのP/B比にかかわらず大麦摂取により耐糖能が改善し、これを介し各種心血管代謝系マーカーの改善がみられることが確認された。興味深いことに、ベースラインのP/B比は食欲関連の指標と呼気中水素濃度に影響を及ぼしていた。HP群とHPB群では小麦負荷後か大麦負荷後かという介入にかかわらず空腹感と食への切望感が低かった。LP群では大麦負荷後に空腹時の食への切望感が低くなり、満腹感が高くなった。またLP群はHP群に比し空腹時の呼気中水素濃度が有意に高かったことから、この2群間では腸内における発酵活性が異なることが示唆された。

LP群に比しHP群は食後のインスリン応答が良好であった(インスリン曲線下面積が低値)ことから、Prevotella属の菌が豊富でP/B比が高い方が食後の血糖値の恒常性維持に役立つと考えられる。

大麦による介入はベースラインのP/B比にかかわらず耐糖能を改善した。P/B比が大麦によるプレバイオティクス効果が得られるレスポンダーとノンレスポンダーを層別できるという仮説を支持する結果にはならなかった。しかし、食物繊維の発酵がもたらす作用にPrevotella属の菌が大きく影響を与える可能性が否定されたわけではない。加えて、LP群に比しHP群では小麦負荷か大麦負荷かという介入とは無関係にインスリン応答がよく、炎症マーカーが低く、主観的な食欲の改善につながっていることから、P/B比が高い方が心血管代謝系の制御に有利であり、肥満や2型糖尿病、心血管疾患の予防につながることを示唆している。

【研究機関】
ルンド大学(スウェーデン)、ヨーテボリ大学(スウェーデン)、コペンハーゲン大学(デンマーク)

※1 Cell Metab 22, 971–82, 2015

Abundance of gut Prevotella at baseline and metabolic response to barley prebiotics
Eur J Nutr 25 Jul 2018