大麦TOPICS

大麦摂取による脂質蓄積の抑制に、胆汁酸を介したシグナル伝達が関与

【背景】
腸内でゲル化した大麦β-グルカンは脂質の排出を促し、腸肝循環から逃れた胆汁酸も消化管下部に運ぶ。胆汁酸は腸内細菌に代謝されて二次胆汁酸となり、小腸の胆汁酸受容体のTGR5が活性化する。また胆汁酸の合成を阻害し腸管への排出を促す肝臓の核内受容体FXRの活性化は、TGR5の発現増加を介し、糖や脂質の代謝を改善することが知られる。※1

高脂肪負荷時の大麦の摂取は、腸内細菌によるFxrやTgr5などの胆汁酸シグナル伝達に変化を及ぼす可能性がある。しかし大麦の摂取が胆汁酸の動態や組成の変化に与える影響は詳細にわかっていない。

本研究はまず、大麦粉を含む高脂肪食を与えたマウスの、各臓器における胆汁酸の動態や胆汁酸代謝に関わる遺伝子の発現を調べた。次に、大麦の摂取が胆汁酸のシグナル伝達を介し脂質代謝を促進する効果があるかどうか検討した。

【方法】
飼料に用いる大麦粉には高β-グルカン品種の大麦、ビューファイバーを使用した。
<試験1>
4週齢のC57BL/6J系の雄性マウスを7日間の馴化ののち、脂肪エネルギー比50%の高脂肪食+ビューファイバーの餌を自由に与える群(HB)と、同+セルロースの対照群(HC)の2群(各群8匹)に分け、12週間飼育した。いずれの飼料も食物繊維を5%含むように調整した。

飼育期間終了後に解剖し、各種生化学的検査、臓器重量の測定、盲腸内容物、回腸内容物と糞便中の非抱合型胆汁酸濃度の測定、血清と門脈血のメタボローム解析、肝臓、回腸、結腸のリアルタイムPCR法によるmRNA発現分析を行った。

<試験2>
実験1と同様のHB、HCに加え、HBと同じ餌と抗生物質入りの水を与えるAB、HCと同じ餌と抗生物質入りの水を与えるACの4群を10週間飼育した。解剖やサンプルの摂取は実験1と同様に行い、ウェスタンブロット用に肝臓のサンプルを採取した。

【結果】
<試験1>
血清の総コレステロール濃度は、HCに比しHBで有意に低かった。肝臓のコレステロール濃度はHB群で低くなる傾向があった。糞便中の脂質含有量に有意差はなかった。

回腸における一次胆汁酸のミュリコール酸(MCA)濃度はHCに比し HBで低い傾向にあった。 盲腸における一次胆汁酸のコール酸(CA)、MCA、および総一次胆汁酸 (PBA) の濃度は、HCに比し HBで有意に低かった。二次胆汁酸のリトコール酸(LCA)と総二次胆汁酸(SBA)の濃度は有意に高かった。 糞便中の胆汁酸濃度は盲腸とほぼ同じ挙動を示した。血清総胆汁酸濃度には有意差はなかったが、門脈内の総胆汁酸濃度はHCに比し HBで有意に高かった。

胆汁酸代謝に関連するmRNA 発現レベルは、肝臓ではFxrの発現がHCに比しHBで顕著に高かった。Fxrに調節されるBsepの発現も有意に高かったが、胆汁酸合成の律速酵素であるCyp7a1 の発現は有意に低かった。回腸では胆汁酸の吸収に関与するIbabpとTgr5の発現がHCに比しHBで有意に高かった。

メタボローム解析の結果、血清ではHBでAMP、CA、タウロコール酸が増加、門脈血ではHBでCA、AMP、ADPが増加した。AMPの増加は肝臓内のAMPK(AMP-activated protein kinase)の活性化を示している。

<試験2>
血清と肝臓の脂質濃度や脂肪組織量の低減といった大麦の摂取による改善効果は抗生物質を投与したマウスでは観察されなかった。抗生物質の投与により、腸管内の非抱合型胆汁酸濃度は著しく低くなった。HCに比しHBで盲腸のMCA が有意に低く、LCAが増加傾向を示したが、この変化はACとABでは観察されなかった。

試験1 同様、胆汁酸代謝に関連するmRNA 発現レベルはHC に比し HBのFxrとBsep で有意に高く、脂質とコレステロール合成に関連する遺伝子(Srebp2、Fas、Hmg-CoAレダクターゼ)は、HB群において減少傾向にあった。Hmg-CoAリダクターゼ以外の各遺伝子について、抗生物質投与群ではこうした変動がみられなかった。HBで回腸のIbabpと結腸のTgr5 の発現は有意に増加したがABでは変動がみられなかった。

肝臓の遺伝子発現と盲腸および糞便の胆汁酸濃度のスピアマン相関分析の結果、HC-HB群で盲腸および糞便中のCA濃度とSrebp2c発現との間に正の相関があり、Fxrとの間には負の相関があった。これは腸管内のCA濃度の減少が胆汁酸の再吸収を促し、肝臓に再吸収された胆汁酸がFxrを活性化したことを示唆している。

肝臓におけるAMPKとリン酸化したAMPK(pAMPK)の比をウェスタンブロットで検討した。HCに比しHBのpAMPK/AMPKは有意に高くなったが、ACとABでは差がなかった。肝臓におけるAMPKシグナル伝達に関連する遺伝子のmRNAの発現レベルがHCに比しHBで有意に高い遺伝子は21あった。AMPK をリン酸化する上流遺伝子のほとんどは、HBで発現が高かった。一方、発現が低かった4つの遺伝子にはAMPKのリン酸化により発現が抑えられるAcacbとLipeが含まれた。

【考察と結論】
大麦の摂取により一次胆汁酸の腸肝循環が促され、高脂肪食が引き起こす過剰な脂質の蓄積と脂質合成に関与する遺伝子の発現レベルが抑制された。一次胆汁酸が減る一方、回腸内の二次胆汁酸濃度は上昇したが、これによりTgr5が活性化してAMP濃度が増え、肝臓でのAMPKのリン酸化と脂質合成に関する遺伝子発現の低下が引き起こされた。こうした変化は抗生物質を投与したマウスでは確認されなかった。大麦の摂取による脂質蓄積の抑制効果には胆汁酸を介したシグナル伝達が関与していることが示された。

【研究機関】
大妻女子大学、はくばく

※1 J Biol Chem 292, 11055–11069, 2017

Barley consumption under a high-fat diet suppresses lipogenic genes through altered intestinal bile acid composition
J Nutr Biochem 125, 109547, 2024

2024年2月8日掲載