大麦β-グルカン、アラビノキシランにセカンドミール効果
異なる発酵部位でGLP-1分泌を誘導

【背景】
大麦の摂取が次の食事のあとの血糖上昇を抑える「セカンドミール効果」は、複数のヒト試験で確認されている。大麦に含まれる水溶性食物繊維が腸内発酵により短鎖脂肪酸に代謝され、短鎖脂肪酸を介するGLP-1分泌の増加がセカンドミール効果の機序と考えられるが、先行研究では血中や糞便中の短鎖脂肪酸やGLP-1の量を測定したものがほとんどである。

大麦によるセカンドミール効果について、腸内代謝物やGLP-1分泌、遺伝子発現の変化について詳細に検討した研究はない。また大麦の主要な水溶性食物繊維はβ-グルカンとアラビノキシランだが、どちらがセカンドミール効果に寄与しているか不明である。

本研究は、マウスに大麦由来のβ-グルカンあるいはアラビノキシランを投与した際のセカンドミール効果を検証し、腸内代謝物や遺伝子発現パターンの違いから、その機序を明らかにすることを目的とした。

【方法】
<試験1>
8週齢のC57BL/6J系のオスマウスを10日間馴化。1回目食として、20%可溶性でんぷん溶液にβ-グルカンまたはアラビノキシランを溶液総量の2%添加して経口投与した(糖質量1.5g/kg体重)。以下、各群をそれぞれBG、AXとする。またβ-グルカンやアラビノキシランを含まない20%可溶性でんぷん溶液を同様に投与した対照群をCtrlとする。1回目食の6時間後、2回目食として20%可溶性でんぷん溶液を経口投与した(糖質量1.5g/kg体重)。1回目食と2回目食の投与後0分、15分、30分、60分、120分に尾部から採血し血糖値を測定した。

<試験2>
8週齢のC57BL/6J系のオスマウスを10日間馴化。試験1と同様に1回目食、2回目食を与え、2回目食の30 分後に解剖した。門脈と心臓から採取した血清中のインスリン濃度とGLP-1濃度、内容物を含む回腸や盲腸の重量、各内容物中の短鎖脂肪酸濃度、有機酸濃度を測定、回腸、盲腸、結腸の各組織はリアルタイムPCRによるmRNAの発現分析を行った。

【結果】
<試験1>
1回目食30分後の血糖値と血糖上昇曲線下面積(iAUC)はCtrlに比しBGで有意に低かったが、AXとの有意差はなかった。2回目食30分後の血糖値はCtrlに比しAXで有意に低く、BGで低い傾向にあった。iAUCはCtrlに比しBGとAXで有意に低かった。

<試験2>
盲腸の重量に群間差はなかったが回腸の重量はCtrlに比しAXで重い傾向にあった。血清のインスリン濃度と総GLP-1濃度に群間差はなかったが門脈血中の総GLP-1濃度はCtrlに比しBGで有意に高く、AXで高い傾向にあった。

回腸内容物の酢酸と総短鎖脂肪酸の濃度はCtrlに比しAXで高い傾向にあった。盲腸内容物の酢酸と総短鎖脂肪酸の濃度はCtrlに比しAXで有意に高かった。酪酸濃度はCtrlに比しBGで高い傾向にあった。

回腸内容物に残存する水溶性食物繊維量について。Ctrlでは飼料由来の未消化のグルコースが多く、BGではβ-グルカンが残存していた。AXではアラビノキシラン画分のアラビノースとキシロースが確認された。盲腸内容物ではBGのみでグルコースが確認され、未消化のβ-グルカンと判定した。

GLP-1を分泌するL細胞の分化と機能に関わるmRNAの発現レベルを解析した。回腸では、Ctrlに比しAXのNeuroD、ニューロゲニン3(Ngn3)プログルカゴン(Pgcg)、BGのNgn3の発現レベルが高かった。盲腸では、Ctrlに比しAXのNgn3、プロホルモン変換酵素1/3(Pc1/3)、BGのGpr43の発現レベルが高かった。回腸ではCtrlに比しAXのNgn3、BGのNgn3とPgcg の発現レベルが高かった。

【考察と結論】
マウスにおける、大麦のβ-グルカンとアラビノキシランのセカンドミール効果が本研究で初めて確認できた。

門脈血中の総GLP-1濃度はβ-グルカンの摂取で有意に高くなり、アラビノキシランの摂取で高くなる傾向がみられ、腸管内の短鎖脂肪酸濃度に有意な変動がみられた。ヒトを対象とする先行研究では、大麦または小麦のパンの摂取により、セカンドミール効果と血清中のGLP-1と短鎖脂肪酸の濃度上昇が確認されており、※1本研究の結果と一致する。

アラビノキシランの摂取により、L細胞の分化に関わるNeuroD、Ngn3、Pgcgの回腸における発現レベルが高くなった。β-グルカンの摂取により、短鎖脂肪酸の受容体であるGpr43の盲腸における発現レベルが高くなり、回腸のNgn3、Pgcgの発現レベルも高くなった。したがって、大麦のセカンドミール効果は、L細胞への刺激を介したGLP-1分泌の増加によるものと考えられる。

本研究では、アラビノキシランとβ-グルカンの粘度の違いに起因する発酵部位の差異も示唆された。腸内細菌は回腸では主にアラビノキシラン、盲腸では主にβ-グルカンを発酵して短鎖脂肪酸を産生し、GLP-1の分泌を促すと考えらえる。

【研究機関】
大妻女子大学、はくばく

※1 Br J Nutr 114, 6, 899-907, 2015

A single administration of barley β-glucan and arabinoxylan extracts reduces blood glucose levels at the second meal via intestinal fermentation
Biosci Biotechnol Biochem zbac171, 2022

2022年12月22日掲載