低分子の大麦β-グルカンがプレバイオティクス効果で糖・脂質代謝を改善


【背景】
大麦β-グルカンによる食後高血糖の抑制や血清脂質濃度改善の機序としては、高分子の大麦β-グルカン(以下、高分子β-グルカン)の粘性による脂質の吸収抑制と排出促進の寄与が大きいと考えられてきた。しかし、低分子でも高分子でも大麦β-グルカンは血清コレステロール濃度を下げるとする先行研究もある。※1また著者らの先行研究でも低分子の大麦β-グルカン(以下、低分子β-グルカン)が糖・脂質代謝を改善することを確認した。※2

一般的に低分子の食物繊維は高分子の食物繊維よりも発酵性が高い。低分子β-グルカンは高分子β-グルカンのような強い粘性は有しないが、プレバイオティクス作用により生じた短鎖脂肪酸などが糖・脂質代謝に影響する可能性があると仮定し、本研究を行った。

【方法】
4週齢のC57BL/6J系のオスマウスを1週間馴化。中脂肪食(脂質エネルギー比25%)に高分子(500kDa)の大麦β-グルカンを添加した餌、低分子(12kDa)の大麦β-グルカンを添加した餌、セルロースを添加した餌を与える3群(各8匹)に分け、61日間飼育した。それぞれの群を順にHMW-BG、LMW-BG、Cとする。HMW-BGとLMW-BGの餌は4%の大麦β-グルカンを含み、各群の総食物繊維量は5.48%となるように調整した。

飼料摂取量と体重の測定は週3回行い、研究期間最終の5日間は糞便を採取した。飼育期間終了後に解剖し、各種生化学的検査、盲腸、脂肪組織、肝臓の重量、糞便中の脂質量とβ-グルカン量、盲腸内容物の短鎖脂肪酸量の測定を行い、リアルタイムPCR法による盲腸内細菌叢の解析、肝臓と回腸のmRNA発現分析を行った。

【結果】
HMW-BGの体重はCに比し有意に軽く、飼料摂取量は両BG群ともCに比し有意に少なかった。盲腸の重量は両BG群でCに比し有意に重かった。肝臓の重量と総腹部、後腹膜、精巣上体、腸間膜の脂肪組織の重量はCに比しHMW-BG で有意に軽かった。

糞便中の大麦β-グルカン量はLMW-BGに比しHMW-BGで有意に多かった。LMW-BGの大麦β-グルカンの発酵効率はほぼ100%でHMW-BGとの有意差が認められた。

糞便中のβ-グルカン量/β-グルカンの発酵効率

盲腸内容物の総短鎖脂肪酸、酢酸、プロピオン酸の量はCに比しLMW-BGで有意に多かった。HMW-BGでも同様の傾向がみられたが有意差はなかった。

盲腸内細菌叢について。Bifidobacterium群の細菌はCに比しLMW-BGで有意に多く、Bacteroides fragilis group群の細菌はCとHMW-BGに比しLMW-BGBで有意に多かった。

血清の総コレステロール、LDL-コレステロール、レプチンの濃度はCに比し両BG群で有意に低かった。HDL-コレステロールはCに比しLMW-BGで有意に低かった。グルコース濃度はCに比しLMW-BGで有意に低く、インスリン濃度はCに比しHMW-BGで有意に低かった。遊離脂肪酸濃度はLMW-BGに比しHMW-BGで有意に低かった。

肝臓のmRNA発現レベルについて。脂質の生合成に関わる遺伝子では、SREBP-1cの発現レベルがCに比し両BG群で有意に低かった。ジアシルグリセロールo-アシルトランスフェラーゼ-1(DGAT1)の発現レベルはCに比しHMW-BGで有意に低かった。

脂質の輸送や酸化に関わる遺伝子ではカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)の発現レベルがCに比しHMW-BGで有意に高かった。

回腸のL細胞の分化に関わるmRNA発現レベルは、ニューロゲニン3(NGN3)の発現レベルがCに比しLMW-BGで有意に高かった。

【考察と結論】
HMW-BGでは脂質の吸収抑制と腹腔内脂肪の蓄積抑制が、LMW-BGでは盲腸内のBifidobacterium群とBacteroides fragilis group群の細菌数の増加、短鎖脂肪酸量の増加、NGN3の発現レベルの増加が確認された。これらの結果から、低分子β-グルカンによる糖・脂質代謝の改善作用は高分子β-グルカンによるものとは機序が異なり、プレバイオティクス効果によるもの考えられる。

本研究ではL細胞が分泌するGLP-1の濃度は測定していないが、NGN3はGLP-1の分泌誘導に関わる重要な因子であることから、LMW-BGの糖代謝改善にはGLP-1の関与が示唆された。

血清インスリン濃度はHMW-BGのみで有意に低かったが、インスリンが制御するSREBP-1cの肝臓におけるmRNA発現は両BG群で大幅に低下した。グルコース濃度はLMW-BGで低かったことから、短鎖脂肪酸によって増強したGLP-1などのインクレチン分泌による糖代謝の修飾がSREBP-1cのmRNA発現を低下させ、脂質代謝に影響したと考えられる。SREBP-1cを介した脂質代謝の調節は、高分子β-グルカンと低分子β-グルカンでは機序が異なると結論づけられる。

【研究機関】
大妻女子大学、ADEKA

【大麦ラボ代表、論文著者:青江誠一郎のコメント】

単離精製した高分子β-グルカンは、消化管内で溶解しにくいため動物実験が困難であったが、事前に溶解した高分子β-グルカンをコーンスターチに混合して乾燥した混合物を配合することで実験を可能にした。その結果、高分子β-グルカン単独では、発酵よりも脂質の吸収抑制による腹腔内脂肪の蓄積抑制作用を介して、全身の糖・脂質代謝に影響することが認められた。一方、低分子化すると脂質の吸収抑制作用は減弱し、腸内発酵による糖・脂質代謝改善が主体となることを証明できた。大麦β-グルカンは、分子量によって作用機作の異なる機能性を発揮することが直接証明できた。

※1 Br J Nutr 104, 364–73, 2010
※2 Cereal Chem 97, 1056–65, 2020


Low Molecular Weight Barley β-Glucan Affects Glucose and Lipid Metabolism by Prebiotic Effects
Nutrients 13, 1, 130, 2021

2021年1月27日掲載