大麦の長期摂取で老化に伴う行動力、認知力の低下を抑制
健康寿命の延伸に寄与

【背景】
大麦はLDL-コレステロール値の低下や食後の血糖値の上昇抑制といった機能性を有し、世界各国で機能性表示が認められている。また我々は先行研究で内臓脂肪の低減作用をヒトで初めて確認した。※1しかし過去の動物試験やヒト試験は試験期間が数カ月間と短期で、大麦の長期摂取による健康寿命への影響は不明である。そこで国産のもち性の大麦「もっちりぼし」を配合した飼料をマウスが自然死するまで与え、健康寿命の延伸にかかわる行動力や認知力、腸内細菌叢などの経時変化を調べた。

【方法と結果】
4週齢の老化促進モデルマウス(SAMP8)36匹を18匹ずつの2群に分け、標準飼料(AIN-93G)で4週間飼育後、一方は標準飼料の糖質のすべてをα化した白米(対照群)、もう一方はα化したもっちりぼし(大麦群)に置き換えた脂質エネルギー比率25%のマイルドな中脂肪食の自由摂取で寿命まで飼育した。飼料中の食物繊維量は、セルロースで補正した対照群は5%、大麦群は7.9%で、たんぱく質の量などその他の組成は両群でほぼ同じだった。大麦群で軟便傾向がみられたため、9週齢以降の大麦群は白米対大麦が1対4の混合飼料とした(食物繊維量は7.3%)。

試験期間中に以下の測定を行った。測定方法と結果をまとめる。

体重と摂餌量:週2回測定。群間に有意差なし。
血中リポタンパクの粒子サイズに基づく脂質解析:16週齢時点、尾静脈血で測定。総LDL-コレステロール値は大麦群で低い傾向がみられたが総HDL-コレステロール値は有意差なし。脳卒中の発症リスクと負の相関があるとされる※2粒子サイズ中、小、極小のHDL-コレステロール値の合計は大麦群で有意に高かった。
空腹時血糖値:16、29、42、55週齢時点、尾静脈血で測定。29~42週齢の変化量は大麦群で有意に低く、血糖値の上昇を長期的に抑制した。
外観の老化度評価:約1カ月ごとに眼周囲病変、毛の光沢、抜け毛などの老化指標を評価。毛の光沢と抜け毛で大麦群の有意な老化遅延を確認。
行動力:筋力(網に逆さまでぶら下がり続ける時間)、バランス力(アクリル棒の上に最大3分間留まれるかどうか)、10分間の歩行距離、歩幅を約7週ごとに測定。筋力は群間差がみられなかった。バランス力と10分間の歩行距離の老化に伴う低下は大麦群で有意にゆるやかだった。歩幅は若齢時(12週齢、24週齢)で大麦群が有意に大きかったが老齢期(29週齢以降)では差がなかった。
認知力(新奇物体認識試験、物体位置認識試験):約7週ごとに測定。老化に伴う衰えが出やすい空間認知機能の指標となる物体位置認識試験において、大麦群では機能低下が有意に抑えられた。新奇物体認識試験では差が認められなかった。
腸内細菌叢解析:約2カ月ごとに糞便の菌叢を次世代シーケンサーで解析。門レベルでは大麦群のBacteroidetes/Firmicutesは有意に高くなった。また、加齢に伴い両群ともにこの比率は低下したが、対照群に比し大麦群は高値を示した。
寿命:生存数の差は58~60週齢で最大となり、対照群に比し大麦群では28%(5匹)多かった。

【考察と結論】
食物繊維が豊富な大麦の長期摂取により、バランス力や歩行能力、空間認知機能について、老化に伴う低下の遅延が認められた。HDL-コレステロールの中でも善玉とされる粒子サイズが中~極小のHDL-コレステロール値が高くなることも確認した。日本では、穀物からの食物繊維の摂取量が大幅に減っている。大麦は主食から食物繊維が補給できる食材なので、中食や外食などでも大麦の摂取が広がれば健康寿命の延伸に寄与できるのではないかと考える。

※1 Plant Foods Hum Nutr 63, 1, 21-5, 2008
※2 Stroke 44, 2, 327-33, 2013


【研究機関】
サッポロホールディングス、サッポロビール、藤田医科大学、医薬品適正使用推進機構

国産もち麦「もっちりぼし」の長期摂取が健康寿命に与える影響
2019年3月22日日本薬学会第139回年会, 口頭発表

2019年4月23日掲載